第17話
そして翌日。
ドキドキとワクワクが合わさった気持ちを持って僕は一人で憲兵の訓練所に向った。
壮観だった。訓練所はまるで小さな砦みたいだ。周りを材木や石材の塀で囲まれ、中には大きな建物がいくつもある。
そこでは騎士、魔術師、魔物使い達が訓練に励んでいる。
騎士は一対一で戦う為の技術を持った憲兵だ。肉弾戦を得意とし、体の大きな人が多い。
魔術師は魔術の訓練をしていた。生まれつき魔力の量は決まっているので、魔術に使える程の魔力を持っている彼らはエリートばかりだ。
そして魔物使い。モンスターを使役する今最も熱い分野だ。パートナーと呼吸を合わせ、人ではできないことをやってのける。難易度は高いけど習熟すれば騎士や魔術師よりも強い力を出せると言われていた。
高揚しながら若い憲兵達の学習風景を眺め、訓練所を進む。
団長棟の一室に通されるとデリンジャー団長から告げられた。
「調べさせて貰った。君は一度憲兵の試験に落ちてるんだな。それもぶっちぎりの最下位で」
「は、はい……」
「ここにその時の評価資料がある。体力はなく、格闘のセンスも皆無。魔力は微々たるもので使い物にならず、魔物使いとしてもパートナーが最弱のウィスプという救いようのない村人。もはやなんの為に生きているのか分からない糞雑魚野郎、らしい。辛辣な評価だな」
団長は苦笑しながら資料を机に落とした。
「あ、あはは……。まあ、事実と言えば事実ですし……」
僕は苦笑いをしながら頭の後ろを掻いた。
すると高そうな椅子に座った団長は顎髭を触りながら僕を見る。幾多もの戦いをくぐり抜けたであろうその瞳は力強く、思わず後退ってしまいそうになる。
「だが君はたった一人でコカトリスの群れを駆除した。追い払うのではなく駆除だ。野生のコカトリスはよく一羽で一人の憲兵と同等だと言われる。つまり五十羽のコカトリスを駆除するには五十人の憲兵が必要なわけだ。五十人と言ったら我が軍では中隊の規模になる」
「は、はあ……」
野生のコカトリスってそんなに強いんだ。通りで僕じゃ歯が立たないわけだよ。
それを一瞬で倒しておかずにしちゃうフレアとしずくはどれ程強いんだろう……。
成り行きで二人契りを結んだけど、もしかしたらすごい事なのかもしれない。
僕が緊張していると、団長が話題を変えた。
「君は最近サンタナが動き出してることを知ってるか?」
「あ、はい。なんか国境沿いで小競り合いが増えたとかって聞いてます」
「そう。奴らは領土を増やそうと侵攻回数を増やしている。この辺りはまだだが、それも時間の問題だ。だからここができ、憲兵が集められたわけだよ。サンタナはいつ攻めてくるか分からん。今はマジシャンキャットの手も借りたいというわけだ」
「え、えっと……。それで僕はどうしたら? ま、まさか憲兵にしてくれるんですか?」
僕はずっと胸に秘めていた希望を口にした。
「そのつもりだった」
……だった?
僕は首を傾げた。
団長は眉をひそめ、肘を机に乗せる。
「だがこの試験結果を見ると考えが揺らがらずをえない。憲兵にタダ飯喰らいはいらない。糞雑魚野郎もだ。もし君がこの評価通りただの村人なら入隊させるわけにはいかん。しかし昨日の騒動を収めた人物は君だと町民の少女が証言してるのも確かだ。なので」
それから僕は団長から説明を受けた。
僕の人生を変えるかもしれない。そう思いながら拳を握り、耳を傾けた。
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