第16話

 あの日。僕が最強の魔物使いだと宣言した日。

 しばらくの静寂が訪れたあと、憲兵達から大きな笑いが起こった。

「おい聞いたか? 最弱のアルフが最強の魔物使いだってよ!」

「ウィスプしか捕まえられない奴が最強なら俺は大団長になれるぜ!」

「畑ばかり耕して頭おかしくなったんじゃねえの?」

「てかお前の名前ってアルフ・フォードだったんだな。アルフォードだと思ってたわ。ごめん」

 まあ、予想はできたけど、僕は見事な程に笑いものだった。

 顔が熱くなり、俯こうとした時、フレアとしずくが出てきて言った。

「笑っていられるのは今のうちだよー」

「あなた達の中で三体ものモンスターと契りを結んだ人がいるなら別だけれど」

「三体? それは本当か?」

 しずくの言葉に団長が反応する。二人はこくんと頷き、僕の元へやって来て服をめくった。

 そこには三つの紋章が浮かび上がる。それを見て笑い声が止まった。

「契りの紋章が三つ……。セントラルの将軍ですら二体だと言うのに……」

 団長の後ろがざわつきだした。するとカインが慌てたように声を上げる。

「インチキですよ! どうせ自分で描いたんだ。そいつのパートナーはウィスプだけです」

 それを聞いてまた憲兵達が笑い出した。

「そ、そうだよな」

「あるわけないよ」

 そうは言うけど声のトーンは少し落ちた。

 団長は顎に手を当て、いくらか考えるそぶりをしてから僕に言った。

「アルフと言ったな?」

「は、はい。アルフ・フォードです。アルフォードじゃありません」

「明日、憲兵の訓練所に来なさい。門番にデリンジャーから呼ばれたと言われた通して貰えるようにしておく」

「……は、はい…………」

「では明日。おいお前ら! まだコカトリスが残ってるかもしれない。探索と怪我をした者の手当を開始するぞ」

「はい!」と憲兵達は元気に声を揃えた。

 か、かっこいい……。僕も団長になればああいう風に指示を出せるのかな?

 それからの僕らは丸焼きになったコカトリスを酒場に買い取って貰った。憲兵隊達が出動した日は賑わうので助かるとかなりの額を手にした僕らは服を買い、食料を買って残ったコカトリスの丸焼きを家で食べた。

 久しぶりに食べたお肉の味は信じられない程おいしくて、涙が出るほどだ。

 お金も手に入ったし、なにより訓練所に呼ばれた。そのことが死ぬ程嬉しい。

 色々な妄想が膨らんでいく。もしかしたら憧れの憲兵になれるかもしれない。そしたらすごい。夢が叶う。

 出生したりしたらこの狭い小屋を改築できるだろうし、生活だって安定するはずだ。

「えへへ~」

 僕がにやけている間にフレアとしずくは黙々とお肉を食べ、見事に完食した。

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