第4話
それからしばらく湖を涙目と体育座りで見つめていた。
だけどいつまで経ってもウィスプが戻ってくることはなかった。
そして後ろでお腹空いたの大合唱を始めた二頭に折れた僕は森から出て、小屋に戻った。
小屋を見て二人は声を合わせる。
「しょっぼ・・・・・・」
「人の家を見た第一声がそれ?」
悲しむ僕だけど、いつまでも女の子を葉っぱ姿でいさせるわけにはいかないと、小屋に入ってタンスを開ける。
そしてそこに入っていたウィスプの服を渡した。
白いシャツにブラウンのスカートだ。
数がない為にフレアにはミニスカート、しずくはロングスカートを渡した。靴はブーツだ。
二人はそれを見てまた声を揃えた。
「だっさ・・・・・・」
「それが人の服を借りる時の台詞?」
むっとする僕だが、二人のつまらなそうだ。
「だってこれじゃあまりにも村人だよー」
「村人から村人の服を貰うなんて。これじゃあまるで村人だわ」
「あんまり村人村人連呼しないでくれるかな。まあ、村人なんだけど」
普段あまり意識しないようにしていることを言われるとなんだか悲しくなる。
二人は渋々服を着た。
そうなると今さらになって僕は彼女達がほとんど裸なのを意識してしまい、後ろを向く。
どうして服を着たり脱いだりするのを見るのってこんなに恥ずかしいんだろう。
そういえばウィスプもいつも恥ずかしがって、あっち向いてって言ってたなぁ。
うちには部屋が一つしかないから。ああ、またウィスプと会いたい。
「ねえ、村人ー、お腹空いた」
「あのさ、僕にはアルフって名前が――」
僕が振り返ると、そこにはウィスプの服を着たフレアとしずくが立っていた。
フレアには少し大きめで、しずくは胸元がきつそうだった。
その姿が一瞬ウィスプとダブって、言葉が途切れた。
「ふ~ん。アルフって言うんだ」
「覚えておくわ」
僕の気持ちも知らないでフレアとしずくは返事をする。
それからまたお腹減ったの大合唱だ。
今さら出て行けとも言えないし、今日のところはとりあえず食事の準備をしよう。
ああ、そう言えばずっとウィスプに作って貰っていたから、僕はほとんどなにも作れないや。
「えっと・・・・・・、野菜のスープで良い?」
「え? やだ」
「いやよ」
好意で食べさせてあげようと思った僕の案はすぐさま否定された。
「・・・・・・え? じゃあなにがいいの?」
「お肉」
二人の声が重なる。
「いや、でも肉は高いし、うちは農家だから家畜もいないしさ」
「じゃあ町で買ってきて」
「そうね」
またしても二人は同意見だ。
「今から? もう夕方だし、今から行っても市場は終わってるよ」
「じゃあ森で狩ったら?」
フレアが笑ってそう進言する。
狩ったらって言われても僕はハンターじゃないし、女神の森で狩りなんてしたら神罰に遭う。
「む、無理だよ・・・・・・。神様が許してくれないよ」
僕がそう言うとフレアとしずくは顔を見合わせた。しずくが頬に手をあてる。
「そう。でもわたし達は肉食だから、肉がないとだめなの。仕方がないわね。この近くに牧場はある?」
「牧場? この先の丘にいるモーゼスさんがコカトリスを飼ってるけど。・・・・・・まさか」
嫌な予感に僕は額に汗をかいた。
「ならそこへ行って家畜を奪いましょう」
「そだねー」
しずくの提案にフレアはにっこりと頷いた。
僕は慌てて二人を制止する。
「いや、いやいやいや! だめだよ! なに言ってるの? 家畜泥棒は大罪だよ! 捕まったら鞭打ちされてから町中ブラックホースに引き回されるって!」
「やっぱりステーキかなー?」
「ボイルもいいわね」
「聞いて! 僕、今すごく大事なこと言ってるから!」
必死に訴える僕を無視してフレアとしずくは肉の調理法を語り出した。
「グリルすると油が落ちちゃうんだよねー」
「あら、あっさりした方がわたしは好きだわ」
「頼むからグルメな調理法の前に倫理を学んでよ!」
結局、話を聞いてくれなかった二人が家畜泥棒に行くのをなんとか止めた僕は誰もいない市場に行ってから、町の肉屋のドアを叩き、お願いですから肉を売って下さいと懇願した。
そうやって手に入れた肉も僕のお腹に入ることはなく、焼いたり煮たりされて二人のお腹に収まった。
肉を与えない二人はまさにモンスターだ。
家畜を盗む。町を破壊する。国を消滅させる。世界を滅ぼす、などとおっかない言葉を羅列して僕を脅す。
そのたびに僕はなけなしのお金で肉を買い、遂には自分が食べる分の野菜すら売って肉に変えた。
そしてそんな生活が一週間も経つ頃には、我が家は肉で破産寸前だった。
もうこうなれば家畜を盗むしかないと考えたのは一度や二度じゃない。
借金をしようにもうちにはろくなものはなく、担保がないからダメと銀行に断られた。
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