第2話

 それから一週間が経った。


 

 熱い日差しが降り注ぐ中、僕は小屋の外であくせくと畑を耕していた。

 ウィスプがいなくなってから仕事量が倍に増え、全身に疲れが溜まっている。

 そんな僕にお構いもなく、金髪をツーサイドアップにした健康的な日焼けが眩しい小柄な少女、ドラゴンのフレアは小屋の中から言った。

「アルフー。お腹減ったー。お肉が食べたい。しずくは?」

 子供体型で赤い目のフレアは隣にいる真逆のスタイルを持った少女に尋ねる。

「無論、肉よ」

 風に揺れる銀色のストレートヘアはまるで絹糸を思わせ、肌は陶器のように白く、宝石みたいな薄いブルーの目を持つ少女。

 グリフォンのしずくは紅茶を飲みながら静かに答える。カップを机に置くと大きな胸がたぷんと揺れた。

 フレアが可愛いタイプならしずくは綺麗系だ。肌の色といい、背丈といい、胸のサイズといい、二人は正反対だった。

「じゃあ、今日はお肉にけってーぃ!」

 万歳するフレアに僕は鍬を振り下ろしながら抗議した。

「今日もでしょ? それにもうお金ないよ? この一週間の食費でいざという時の為に貯めておいた貯金も全部使っちゃったし。いざという時、僕は一体どうしたらいいの?」

「神に祈れば?」

 呑気に笑うフレアだが、その目が笑ってないことを僕は知っていた。

 フレアが笑うその横で優雅に紅茶を飲むしずくがぼそりと呟く。

「そう言えば、まだ人の肉は食べたことがないわね」

「あ。あたしもー」

 フレアが手を上げる。

 ・・・・・・まだ?

「いざという時は、それもまた仕方ないわね」

 しずくは意味深な溜息をついてカップをお皿の上に静かに置くと、窓の外にいる僕を見た。

 食べられる――。

 このままじゃこき使われた挙げ句、食料として僕の一生が終わってしまう。そんなの嫌だ・・・・・・。嫌すぎる。

 僕は労働による汗と恐怖による冷や汗を同時にかきながら、下を向いて畑を耕した。

 どうにかして作物を売ってお金を作らないといけないのに、既に僕の畑は空っぽだ。

 まだ小さい野菜も市場で売らないと二人の肉代が間に合わないせいだった。

 ここ数日、僕はまともな物を食べてない。

 畑で作った赤くて細い野菜、スティックキャロットをかじる僕の横で角が一本生えた牛、一角ビーフのステーキを頬ばる彼女達に同情するなんて感情はないらしい。

「・・・・・・ああ、どうしてこんなことになったんだろう?」

 カロリー不足で動いたせいか、僕の手は震えて鍬を持てなくなった。

 そのまま畑に膝をつき、太陽にじわじわと焼かれていく。

 多分、僕の人生はこのまま畑を耕して二人を養いながら終わるんだろう。

 そして働けなくなったら食べられる。そう思うと絶望しか感じなかった。

 

 どうしてこんなことになったのかと言うと、その理由はもちろん一週間前に遡る。

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