『ランドリー・ロンド』

「……私、コインランドリーはじめて来ました」

「でしょ? やっぱ、いざという時に使えるよう覚えておいた方が良いからさ、連れてきて良かったよ」


 私とアズマさんを出迎えたのは、ずらりと並んだ洗濯機。その光景はさながら洋服のカプセルホテルのようだ(私自身はカプセルホテルを利用した事は無かったが、とにかくそう思った)。アズマさんは『昔、ここはコンビニだったんだけどね』と言っていたが、それを偲ばせるものはほぼ見当たらない。強いて言うなら、白い大理石風の床ぐらいだろうか。だがそれが醸し出す清潔感のせいで、ここが最初から洗濯場として作られたと言われても気が付かなかっただろう……

 そんな事を考えていると、アズマさんに後ろから肩を叩かれた。


「……おーい、五福。私さ、札を両替してくるから。私と五福の2枚分の毛布、頼むね」

「あっ、はい。コースを選んで、入れておけばいいんですよね?」


 私はアズマさんから渡された毛布を、据え付けられた中でも一際大きな洗濯機の中へ押し込んだ。コースは『洗濯&乾燥』、温度は『高』…… 私がボタンを押す度に洗濯機は赤いランプでそれに応える。そこへ両替を終えたアズマさんが戻って来て、手のひらに乗せた100円玉を次々に洗濯機へ呑み込ませた。"ふたりでスムーズに仕事ができる"。ただそれだけの事なのに、なぜだか私は大きな達成感を得ていた。


「できましたね、アズマさん!」

「そうだね、大成功だ。……あと59分と30秒。それまで時間潰そうか」

「いいですよ。どこに行きますか?」


——

————


「……お、しっかり終わってるな」

「アズマさん、“今年中に綺麗にしたい”って言ってましたもんね。もう12月ですけど……」


 再びコインランドリーへ戻ってきた私達を、今度はふわふわになった毛布が出迎えてくれた。いつもとは違う石鹸の香りに、何となく落ち着かないような…… そんな胸のざわつきが気になり、アズマさんの方を見る。私と目が合った彼女は、『何だかワクワクするね』と呟いてくれた。そうか、私もワクワクしていたんだな。そして、その私達の気持ちのように柔らかく膨らんだその2枚の毛布は、持ち帰るための袋に詰めるだけでも一苦労だった。


「……はぁっ、入った!」

「明らかに膨らんでましたね……」


 暖かな毛布が詰まった袋を抱えていると、まるで焼きたてのパンを持っているかのようだ。さて、後はこの大物を持って帰るだけ。だが近所とはいえ、毛布を抱えて帰るのは一仕事だ。それならいっそ私が『二袋抱えてひとっ飛び』すれば、アズマさんも楽ができる。そんな事を提案すると、アズマさんは笑いながら首を横に振った。


「いいよ、無理しなくて。私も持つからさ、一緒に歩いて帰ろうよ」


 彼女はそう言うと、毛布一袋をその手に取った。私は『飛ばなくていい』と言われてしまったはずなのに、なぜかその言葉が嬉しかった。

『この荷物を持ったまま歩いて帰ったら、きっとお腹が減るだろうね』。『帰りに、焼きたてのパンでも買いませんか?』。そんな会話を交わしながら、アズマさんと私はコインランドリーを後にした。





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