『我が怒りもてなせるものは…』
1週間に一度訪れる、休息の日曜日。だが、休みだろうと人々は生活を続けなければならない。
ここは桑都の片隅にあるアパートの一室。薄曇りの空を切り取った窓の下で、エノコロとアズマのふたりが段ボールを挟んで座っていた。
「休日に悪いね、アズ。新しい棚が欲しくてさ」
「五福は後から来るって。始めちゃおうか」
エノコロとアズマは床に板材やネジ、工具を所狭しと並べる。部屋はまるで料理番組のキッチンのようだ。ふたりは残されたスペースで身を寄せ合い、一緒に説明書を覗き込む。『じゃあ、はじめようか』と、アズマの六本指がドライバーをしっかりと握り締めた。
――
「……エノ、そんな強く締めなくていいよ。ネジが潰れる」
「別にいいでしょ、私の物なんだから。うるさいな……」
「あー、そうですか。じゃあもう言わない」
「うっわ、硬っ…… これじゃもうネジ取れないじゃん。アズさぁ……」
「……悪かったね」
「ネジ」
「はい」
「……」
「……」
――
「……エノコロさーん、こんにちは! アズマさんもう来てますか?」
突然、エノコロの部屋のベランダから元気な声が聞こえてきた。用事を済ませたコウモリの五福が、先輩ふたりに合流せんと空から飛び込んできたのだ。その屈託のない挨拶は、室内のひりついた空気とは正反対だった。
返事が無いことを訝しんだ五福は、ベランダの掃き出し窓から中を覗き込む。そして彼女は、その刺々しい空気の原因…… やけに無表情なエノコロと、眉間に皺を寄せたアズマと目が合った。
「また、ケンカしたんですか」
ベランダから室内に上がった五福は呆れ顔を隠そうともしない。アズマとエノコロを咎めるように、埃っぽい空気の中でわざとらしく溜息をついた。お互いに視線を合わせようとしない半獣ふたりの間で、出来たての小綺麗なカラーボックスだけが凛と佇んでいた。
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