krank

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「僕ら、これからどうしようか」

 何本もの管に繋がれてベッドに横たわっているあなたは、やけに静かな深夜に目を覚まして、そう呟いた。病室の四角い窓からは何も見えず真っ暗で、部屋の中だけが無菌みたいに真っ白だ。カーテンを閉めようと思ったが、窓を閉めることを嫌がったあなたのことを思い出して、カーテンから手を離した。

 ベッド脇にある、安っぽい錆びたパイプ椅子をきしませながら私はあなたの顔を覗く。あなたの黒目がすっと私の顔をとらえる。そしてあなたは続けて言葉を紡いだ。

 「蓮が咲いたのを見たんだ」

 なんて残酷なことを言うのだろう。あなたの気持ちはまるで天秤のようだった。希望を持たせようとするようなことをしたかと思えば、私を突き落とすようなことを言い始める。

伏せ目がちにそっか、と頷くと、あなたは私の頬に手を添えて涙を拭う仕草をする。

「泣いていたの?」

「……みたいだね」

毎晩泣く度に、あなたは私の涙を微笑みながら拭うのだった。そしてその度に私の決心も揺らぐのだった。何度諦めよう、見捨ててしまおうと思っても、私の中であなたの存在が風化することはなかった。さびついて忘れられてしまえばいいのに、涙がいつも私の中のさびを溶かすのだ。

 「気分はどう?」

私は頬に添えられたあなたの手をベッドに下して、ベッドの手すりに頬杖をついた。

「そうだなあ、良い方、なのかな。いや分かんないけど。でも、90年代のヒットソングが聞きたい気分かな」

「全く関係ないし、それいつものことじゃん」

くすくすと笑い合う。古いオーディオプレイヤーにあなたが手を伸ばして、再生のスイッチを押す。スピーカーから懐かしいメロディが溶け出してくる。時間の流れがゆるやかになるのを感じた。私もあなたもいつも通り何も言わずに静かに音楽を聴く。全てが溶けだしていくような、全部一緒になれればいいのに、なんて、そんな気分になる。細胞一つ一つを遮る細胞膜さえ気に入らなくて、全部溶け出してあなたと一緒になれればいいのに。

目をゆっくり閉じていくあなたを見て、このまま甘い天国に行くんじゃないかと思った。そうなればいいとも思った。あなたを傷つけるだけの手術も、つらい投薬も、すべての苦痛をなくして、無痛の愛だけを受け取ってほしいのだ。いつ死ぬのかも分からないあなたを見ることは私にとってつらいことで、それが捨て際の日々ということも把握していた。だから、自分の手で終わらせたいと思った。

頬杖をついていた手をあなたの首にかける。かけようとした。あと数センチで首に触れるところで、オーディオプレイヤーは音を切らせた。

静寂。

あなたは目を開け、そして口も開いた。

「僕ら、これからどうしようか」

ああ、あなたは私にこの日々を終わらせる決断さえさせてはくれないのだと分かった。パイプ椅子を軋ませ、身体を元の座っている姿勢に戻した。そしてふふっと笑った。あなたもつられて、ふふふ、と笑った。笑いあった。

二人最後に、笑うだけだった。

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krank @rinrindesita

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