第3話 林姦学校に行こう

私は川原木魅血流かわらぎみちるこの姦嬲姦女学院に入学してから一週間が経った。初日から退学を試みて黒焦げになった大道場罪子さんと寮の同じ部屋で今は生活している。死刑囚の部屋のような質素で狭い部屋に二人で生活するのは、数日間は息苦しく感じられたけれど、罪子さんは思っていたより接しやすい人だったこともあり、最近はとくにそういう息苦しさを感じていない。いつも彼女はこの高校から抜け出す術を考えては私に話してくる。まだあきらめてはいないみたいだ。


寮生活には慣れてきたけれども、相変わらずこの高校にはまったく慣れない。

なにもかもがおかしい、国語系の授業では延々と女性が虐げられてきた歴史についての文章を読まされ、暴力の教科はもう存在自体が既におかしい。

暴力準備という教科は、グラウンドを走らされたり、基礎体力を作るような一般的な高校の体育とそう変わってはいない。名前はおかしい、またそういった基礎体力を作るような一般的な運動が暴力の準備であるとしているのだから、そういう意味ではやっぱり他の高校の体育とは全然違うものと言える気がする。全然違う。

基礎格闘暴力も技術暴力もおかしい、基礎格闘暴力では雄殺術という聞いたこともないような格闘技を学ぶことになっており、より早くより強い速度で男性器を破壊することを目的とした練習をさせられることになる。組を組まされ、片方は男役として股間に付けられた風船を守るように相手の攻撃を受け流し、また片方は全力で相手の股間にある風船を割りに行く、そういった鍛錬を延々と繰り返す。型や受身の練習もなかなか苦しい。私は風船を守れなければ風船を割りに行くこともできないのでてんでだめな教科だ。そもそもこんなものは教科じゃない。これが学びなら私が今まで学校で学んできたことはなんなんだ。

技術暴力ではなんとかやれている、射撃訓練を行うこの教科は私にとって救いだった。銃刀法が存在する日本で本物の銃を高校の授業の一環として使うようなこのおかしさは放っておいて、初めて握る拳銃は私の手に妙にフィットしていて、慣れ親しんだ感じすらしたものだ。そういった感覚もあってか成績はとても良く、的を出してもらえばすぐにド真ん中に命中させるのもワケない。ただしそういった好成績を打ち出しても先生方は褒めるどころか罵るまである。銃は弱い女の武器だとか平気で抜かすような有様で。拳銃射撃の技術よりも雄殺術を極めるほうが戦士として価値があるだとか言い出す。私たちは件のマンゲーゲンとやらの組織と戦うための戦士だと認識されきっているみたいだし、そんなのになった覚えはないけれど、何言ってもなんにもならないだろうと諦めがある。私は相変わらず自分のことを高校生、女子高校生だと認識することに努めている。私だけじゃなく他の生徒もそういう認識だろうと思っていた。実際最初はみんなそうだった、だからこそこの学校の意味の分からないカリキュラムや意味の分からないことをまくし立てられて学校に監禁されているような理不尽な状況に不満をダバダバ垂らしていたのだったが。最近は完全に自分を虐げられる女性を救済し悪の男どもを断つための聖戦士だと思い込むようなのもちらほらと出てきた。みんな疲れきっているんだ。この高校は本当に私を除いた誰もが男性による性暴力の被害に遭った人ばかりみたいだから、そういうバックグラウンドがあり、洗脳だといっても差し支えないような学習を繰り返すことで聖戦士としての意識を刷り込まれてしまう、無理ないと思わないでもないけれど、一週間程度でそうなるとは。

罪子さんはそういう風でもなく、延々とここから抜け出すことだけを考えているので、サイドで言ったら私に近い側の人だって言える。彼女もそういう経験があるはずだけれど、そういう話を聞くほど親しくなったとは思えないので未だにその話はしたことがない。気にならないわけではないけど、今後生活していくルームメイトに嫌われるような可能性のある選択肢は選びたくない。なんせ今は彼女くらいしか話せるような相手がいないし。クラス内ではそれぞれ最初はよそよそしかったお互いも少しずつコミュニケーションを取り始めてあつまりが出てきたように思える。一人ぼっちの人もまあまあいるけれども。コミュニケーションを自分から拒絶している感じの人なので、ハブられてるわけではないみたいだけれど。そういう人らの中で一番目立つのは業巣屋ぎょすやりるかさん。学ランを改造してゴシックロリータ風にして案の定担任に怒鳴られていたが、それで諦める事はなく、「その動きにくそうなゴスロリ学ランで校庭を3000km走ってみろ、走れたらその格好を許可してやる」という担任の冗談をそのまま真に受け、挙句の果てに死にかけながらもやってのけた彼女のゴシックロリータへの恐怖の執念、そういうわけあってか関わろうとする人はあまり居ないけれど、彼女はあまりに目立つものだった。見た目でも、中身でもそうだ。


今はあれこれと振り替えって考えて見たりしながら一時限目の準備をしているところだ。今日の一時限目はガイダンスと書いてあった、いやな予感がしないでもない、いやな予感しかない。何をやらされるんだろう。

不安を胸に抱きながら教室へ向かう一歩一歩足踏みしめるごとに、不安が濃いものに感じられてきて、汗が流れてきた。


ガララと教室の扉を開ける、そこには同じような不安げな顔をした生徒達がお互いに喋ったりふざけたりする様子もなくただただ座っていた。普段なら多少の騒がしさがあって活気感じさせられるものだけど。

みんな何言われ何させられるかわかったもんでないからそんななのだ。


沈黙立ち込める教室、チャイムが鳴り、同時に教室のドアがガララと音立てて開き、大女、担任が入ってきた。


「お前達には林間学校に行ってもらう」


どうやら林間学校のガイダンスだったそうだ。それにしても、林間学校という事は、ようやく学校の外に出ることができるということ。こんなに嬉しい事はないと私も他の生徒も先程の暗い鬱々とした表情が嘘だったかのようにパッと明るくなった。

ただ、林間学校という楽しげな言葉の響きだけに喜んでしまっている私たちは馬鹿だった。姦嬲姦の林間学校だという事を忘れている。

また、そもそも林間学校じゃないかもしれない。どうせ”林姦学校”とか、言い出すんだろう。


「先生、林間学校と言う事は、この学校に出てそういった活動をすると言う事ですか?」


「ちがう」


嬉しさの勢いあってかウキウキしながら質問した前の席のたしか女形田という名前だったはずの生徒の質問で、先までのにこやかな雰囲気は無くなってしまった。やっぱりそうはいかないのか。


「この姦嬲姦女学院には、地下に様々な施設がある。その中でジャングルを模した戦闘訓練施設がある。気温は人工太陽を使ったリアルなもので、その人工ジャングルにはジャングルと同様の生物も生活している、いわば巨大なビオトープのジャングル版というわけだ。」



「そこで一週間の間、三人一組のチームを組み、他のチームを倒しながら最後まで生き残る事が目標のアクティビティを行う」


「他のチームを倒す、だとか生き残るだとか、どういう意味ですか」


「ゴム弾の入った拳銃と、女以外の物を切る際には本物のナイフになるが、女を切ろうとするならナイフの刃が引っ込む、女尊全卑ナイフを武器として渡す。アクティビティの際には君たち生徒らにはセンサーを搭載した特殊シャツを着用してもらう。これによって女尊全卑ナイフで切られた箇所や回数、ゴム弾が当たった箇所や回数を考慮して生か死かの判断を行う」


林間学校と称してわけのわからないジャングルビオトープだか得体の知れない場所に閉じ込められてサバイバルゲームやらされる事になった事が明らかになった。ゴム弾を当てるだとか平気で言うものだけど、普通に人に当てても大変痛く、目に当たろうものなら当然失明するような危険なものでサバイバルゲームだとか、安全のアの字も頭の中に無さそうな病気の考えた林間学校だ。


「明日朝6時教室に集合するように。良かったな、明日から一週間一切の授業が無いぞ。」


普段の授業が無くなる代わりに林間学校に行ける、普通の学校であれば楽しい学校行事にウキウキするものなのかもしれないが、血が流れる事が目に見えているような危険なサバイバルゲームをやらされるのが目に見えてる林間学校となれば、そうはいかない。なにも面白くない。


意味の無いような安全のしおりを渡されて読まされて、いつの間にかガイダンスは終わり、普段通りの異常な授業が始まる。それも林間学校というもう目と鼻の先まで来ている不安について考えていると、普段は永遠に感じられるような苦痛でしか無い授業もあっという間に終わってしまった。大きな不安に全ての体感時間がグッと短くなる。





「罪子さん、罪子さんは明日の林間学校、不安ですか」


食堂で夕飯を食べながら、不安を共有して少しでも紛らわせるために一人しか居ない学友に聞いた。


「不安だけれど、チャンスでもある。この学校の構造をより良く知る事で、脱出の手口が見つかるかもしれない。地下にどデカイジャングルビオトープなんて大それたものがあるというなら、一つくらい学院脱出の突破口があってもおかしくは無いと思わない?」


やっぱり彼女は強く、逞しい。退学し脱出試みて初日に黒焦げにされたのにも関わらず、未だにこの女学院からの脱出のスキを常に伺っている。林間学校は三人一組のチームを組まされるそうだけど、彼女が一緒のチームに居てくれれば頼もしいかもしれない。あわよくば本当に脱出の突破口とやらが見つかってしまうかもしれない。私は他の生徒たちと違って、マンゲーゲン関係者やその親族らによる性的被害に遭ったわけでもないので、この学校を出たとて何が起こるわけでもなく、居るだけで気が狂うような高校から出られて清々しい気持ちになるだけだ。だけれど罪子さんは、出れたところで本当にそのマンゲーゲンやらに見つかってしまったら殺されてしまうんだろうか。

存在すら確かでない秘密結社の存在を信じるのもまあ馬鹿らしいし、そもそも林間学校で脱出できるという前提でごちゃごちゃと考えても意味がないと思い、頭をリセットさせた。


「罪子さんと同じチームになれれば、なんとか一週間やっていけそうな気がしますね」


「まあ、顔見知りのがやっていきやすいだろうね。誰だか知らないような奴二人と一週間もサバイバルするなんて、映画なら何起こってもおかしくないような展開よ」


まあ確かにそうだ。それにジャングルビオトープとやらには、ジャングルに生息するような生き物も存在するという事を担任は言っていたし、人工池があれば巨大なワニが潜んでいたとしてもこの学校であったら違和感がない。ゴリラもいるかもしれない。ゴリラは普段は温厚だが、発情期のゴリラとなるの話は別で、大変凶暴な生き物になるというし、発情期のゴリラに八つ裂きにされて喰われるかもしれない。


「まあ、今何がどうなるか考えたところで、あんまり意味もなさそうですし、今のうちに沢山食べて沢山寝るのが良さそうですね」


「そうかもね」


会話をやめて、二人で食堂のカレーを口にかき込む。もうなにも考えないことにした。不安だからといって頭動かせ続けて、どんなものだか見てもいないような場所でのサバイバルについて考えてても、寝れなくなるだけ。埒あかないと来る。


カレーを完食して皿を返却口に返すと、そそくさと二人で部屋に戻った。それから特に喋ることもなく、歯を磨いて早々に布団の中に入っていった。

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