第63話 revenge「リベンジ」
不安そうに自身の先輩を見る明奈に、和幸が言う。
「信じてやれ。お前を守るために、今のあいつは本気だ」
双剣を手に全速力で距離を詰めるフラム。明人はそのフラムに向けて一発の弾丸を射出した。
弾丸の名は〈崩解弾〉。先ほど巨兵を一撃で消失させた特殊弾。当たれば、その存在がどれだけ高い存在強度を持っていたとしても消す。
〈螺旋徹甲〉との違いは、連射不可能なコストの高さと防ぎやすい点、空中にシールド等を展開すれば防ぐことができるが、逆に剣でそれを受け止めたが最後、体もろとも無へと帰すだろう。
フラムもまた剣を交差させてその弾丸を突破しようとした。
着弾。その効果は、剣を持つことで連続しているフラムにまで届き、フラムもまた粉々となり消えるはずだった。
「な……!」
明人は驚きのあまり声をあげる。フラムは消えなかった。何事もなかったかのように明人とゼロ距離まで来た。
剣がすでにその手にない。攻撃は暴力だ。手を振り上げ殴ると見せかけ、振り上げた勢いを利用して回し蹴りを行う。
明人はバックステップで躱すと銃口を再び向け、引き金を引く。
今度は弾丸を惜しみなく連射する。シールドを使って防ぎ再び攻め立てようとするが、そのシールドはあっけなく砕かれ、フラムは急きょ剣を再び生成、その弾丸を剣を使って弾く。フルオート型ではない分弾の間隔が長いのが惜しい。
これ以上は効果を望めないと分かった明人は銃撃をやめ、戦うために情報を整理する。
(……なんで最初の〈崩解弾〉は防がれた)
明人が対人戦の切り札として用意している弾の種類は2つ。2つとも、相手が躱さず受けに回れば間違いなく致命的な一撃を与えられる弾丸。その1つをあえて即座に使ったにも拘わらず見事に躱された。
(……まさかとは思うが、着弾直前に剣を手から離したのか? 規格外だな……。ここから先遠距離斬撃には注意だ)
ここまでを思考するのに5秒。
そしてその5秒の間、フラムもまた次の攻め手を考えていた。考えなければならなかった理由は、明人の弾丸の効果を見てのことだ。
(危険な予感がして手を離したのが功を奏した。恐ろしい弾を使うな。剣で受けないようにしよう)
フラムも新たにデータを使い、攻め手を考える。
明人の残りテイル数は1056、最大値のおよそ50パーセントだ。一方でフラムはここまでの行動でおよそ17000近くを使っている。残り保有数12670。まだ余裕がある。
フラムが再び動き出すことで戦闘は再開された。フラムは再び距離を詰めながらまだ距離があるにも関わらず剣を振る。
遠距離斬撃だと分かった明人は、特殊なシールドを想像した。水色のシールドが現実化し、飛んで来た斬撃を反射する。
反射して自分の方に戻ってきた斬撃をはじき飛ばしフラムは突進を続ける。
明人が銃撃を行う。直後、銃口を向けながら目を疑った。あっさりと命中した弾丸が何の手ごたえもなく貫通したのだ。
(立体映像か! 自分と重ねてたのか)
明人はすぐに手持ちのデータの1つを使用する。特殊なレンズを使った眼鏡を装着、そのメガネはサーモグラフィーの役割をしていて、相手のもつ温度を察知し相手の場所を割り出す。
周りを見て明人は自分の危機を察知した。なんと自分のすぐ横にフラムはすでに接近していたのだ。
下から斬り上げが明人に襲い掛かる。明人は後ろに重心を寄せ、できる限り躱そうとしたが剣先10センチが明人の胴をしっかりと捉え、斬り裂いた。
「がぅ……!」
フラムは痛みを食いしばる明人にそのまま追撃を仕掛けるが、明人は〈爆動〉を使用し後ろへ跳躍、これを躱した。
フラムは明人に透明化が無意味だと知り〈透化〉を解く。明人が発砲してきたところを的確にシ-ルドで防ごうとした。
弾丸の軌道が突如変わる。フラムが出したシールドを避けて、横側から迫ってきたのだ。
しかし、シールドを展開しなおしてその弾丸を受け止めるフラム。作り直しにはもちろんテイルが要求されるので人間ではこのような使い方は推奨されないが〈人〉となったフラムであれば話は別だ。
そしてフラムも〈爆動〉を使い空いた距離を一気に詰めようと突進。傷口を押さえ、苦悶の表情を浮かべながらも明人は再び銃口を向けた。
フラムは次に来る銃撃から身を守るため、通常使ものと違う種類のシールドを想像して創り出すことに。それは明人がここに来るまでに消したあのゴーレムと同じ素材でできた盾だった。
空中に出現したその盾は、明人の〈螺旋徹甲〉が通じないうえに、フラムと物理的に連続していないため〈崩解弾〉を使っても壊れるのはシールドのみ、フラムは無傷は。まして他の通常の攻撃弾が効くはずもない。
しかし、明人はそのまま銃口を向け引き金を引く。直後、拳銃からとは思えないほどの爆音がアリーナに響き渡った。
放たれた光弾は盾をあっさりと貫通しフラムに迫ったのだ。
(え……?)
フラムはすぐに左へと方向転換するが間に合わない。急所からは外れたものの、光弾は右肩を貫いた。
「ぐぁ……!」
情けなく転がり、そしてすぐに体勢を立て直すフラム。しかし、右肩の中でも良くないところにダメージを受けたのか、右手に力が入らなくなり、剣を落としてしまった。
「今のはなんだ!」
敵意をむき出しにするフラムを見て、明人は体の傷を押さえながらも当たったことについて満足そうに笑う。
今の弾が明人のもう1つの切り札である〈ペネトレイター〉。貫通力であれば〈星空の涙〉を上回る対障壁用攻撃弾。
(2つ使って有効打なしか……。俺の戦術は特殊性が武器。ネタばらしが過ぎれば負ける。次が勝負だ)
明人の銃口は再び相手に向く。フラムもまた動く方の剣を握る手に力を籠める。
(野田和幸が加勢してこないのが変だ。〈宙踊器〉を向こうにしている場をつくっているのは、あいつだろう。ならもっと踏み込んでいいな)
フラムのそれは事実で、アイデア自体は明人が考えたものの、明人はフラムとの戦いにテイルを消費するため場をつくるのは和幸が行っている。
(問題はあの弾丸。気軽に連射していないところを見ると使用するテイルが多いか、連射不可能という制約があるかだ。いずれにしても、そうやすやすとは撃ってこない。次が来る前に銃を弾き飛ばす!)
再び距離を詰めるフラム。
明人は想像する、地面から来たる男を貫く巨大な棘が生える光景を。現実となり、地面から鋭利な棘が生成されるが、それをフラムは避け明人の元へ。
フラムは剣を振りぬく、が防がれた。明人の左手に短剣が握られている。それは奨も使っている短剣。高い硬度を誇るその短剣は、フラムの剣を受け止めても刃こぼれ1つない。
数回交わる剣戟。片手であれば、剣術の専門家ではない明人も短剣を使い受け止められる。
フラムは剣戟を止められている現状を打破するために、剣を弾くのではなく、相手を力まかせに押し出した。そして体勢が崩れたところに、蹴りをいれようと右足を上げる。
明人は押し出しの勢いを使って蹴りが入らないところまで距離ととり2発銃撃。
フラムはシールドでそれを防ぎ、自らのシールドごと剣の刺突で貫きながら明人へ追撃する。剣を弾き、その瞬間を狙った一蹴が直撃した。
「ぐ……」
内臓が破裂するのではないか、それくらいに深く入った蹴りでも意地で耐え〈爆動〉を使ってフラムから距離を取った。その最中、フラムの脚をめがけて弾丸を3発。
〈爆動〉を使いながら器用に足を狙うのは難しい。その3発の弾丸はフラムには当たらず地面に着弾する。減速した明人の脚に、地面から鎖が出現し絡まった。これで明人は身動きが取れなくなる。
「な!」
フラムがその場で想像し、つくったものだということは想像に難くない。
(これが最後だ……!)
フラムは〈爆動〉を使い跳躍、剣を再び構え突進した。明人は銃口を向けるが、もう一本の鎖が飛び出して銃と激突し、銃は弾き飛ばされる。
さすがにそこまでは明人も予想外だったのか目を見開き、迫るフラムの前にシールドをつくるしかできない。しかしシールドではフラムの斬撃を防ぐことはできない。障壁ごと貫かれそのまま絶命するほかはない。
「先輩!」
明奈の悲鳴があがる。しかしそれも虚しく響くだけ。明人が動けるようになるわけではない。
終わりだ。フラムがそう確信したその時。
明人の口が確かに4文字の言葉を放った。
「ショット」
明人は銃を持っていないはずなのに、発砲音が響いた。
フラムの左肩を、持っていた剣を、そして右足を。3発の光弾が貫いた。
剣は定義破綻により粒子と化して消え、フラムは突進の勢いのまま目の前のシールドに激突。体に凄まじい衝撃が走り、反射で〈爆動〉を使い明人と距離を取って、動かなくなった左手、右足の痛みに苦悶の表情を浮かべながら崩れ落ちる。
「なんで、なんで、なんで?」
敗者は周りを見る。先ほどとの異変はただ1つ見受けられた。先ほど明人が地面に着弾させた場所から何かが発射された形跡があった。
まさか。フラムは思う。明人は、そのフラムの心の声を察し言った。
「切り札は最後まで残しておくものだ。まさかお前も、一度着弾した弾丸が、また発射されるなんて思わないだろうからな」
「貴様の想像か……」
「テイルは想像できればなんでもありだ。刃が宙を舞うのがありなら、俺のこのファンタジーもあり得るだろう?」
「ぐ……」
「チェックメイトだな」
自分を縛る鎖を斬り、地面に落ちた銃を拾い上げようとする。
「お前に殺されるくらいなら、可能性を選ぶ」
フラムは撃墜したヘリの落下を防ぐシールドを解除する。当然ながらヘリの残骸が頭上から落ちて、フラムを下敷きにした。明人は巻き込まれないように距離を取らざるを得なかった。
結果的に、フラムは生死不明の状態に。止めを刺すこともこの瓦礫の多さと、残りテイル量を鑑みて不可能だと明人は判断するしかない。
「とりあえず、奴はもう死ぬだろ。ご苦労だったな、明人。外に出るぞ。他の2人を追う!」
和幸の提案に頷き、明人は傷口を押さえながらも、泣きそうな顔で寄ってきた明奈の手をとる。
明奈は無事に帰ってきた明人を見て、
「よかった……です。お疲れさまでした」
無事に勝利して生還した先輩を労った。
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