7 影の女神の降臨

第62話 the end of island「島の終焉」

 森を駆ける戦姫2人。


 魔法陣を展開し、そこから威力重視の橙の光砲を放ち続ける。その数は同時に10以上、多い時には30以上を展開することがあった。それら1撃1撃が光の守りを崩し、徐々に肌を焼いている。


 その一方で光から距離を取り続け、瑠美は森を逃げている。


 光は右手に持つ一振りの刀と投げ用の短剣を使用し追い続ける。迫った攻撃を剣で砲撃を両断しながら防ぎ、投げ短剣を生成しては、それにエネルギーを纏わせて投擲、自分に迫る砲弾を破壊して、瑠美との距離を詰めていく。


 光は〈爆動〉を使用。攻撃の間を縫い、一気に瑠美へと肉迫した。


 1度目の斬撃、確かに瑠美を捉えたはずだが、それは上空へと跳躍した瑠美に回避される。


 それを追跡して2度目の斬撃、それも躱され5つの砲弾が光に襲い掛かった。


 光は3つを短剣の投擲で破壊し、1つを幾重にも展開したシールドでぎりぎり防ぎ、残りの1つを剣で斬り裂いて突破した。余波により、また火傷の箇所が増えたものの、致命傷ではないため問題ない。


 しかし、今の攻撃の対処の間にまた距離を離された。光はそれを見るや否や迷わず短剣を瑠美の方に投擲した。〈星光の涙〉にも使う貫通力の高い光弾のエネルギーを纏わせているため、威力はすさまじく。砲撃を簡単に貫通できる。


「く……!」


 当たれば死ぬと確信を持って言える。飛来する短剣を紙一重で躱しながら、何とか光から逃げていく。


 光は〈爆動〉をつかい、また瑠美へと接近した。しかし刃が届く直前、瑠美を守るためにいくつもの砲弾が自動で放たれる。


「ち……!」


 舌打ちは光のもの。瑠美があらかじめセットしていた自動砲撃は、剣を振ろうとしていた光に直撃。威力を物語るすさまじい爆発を起こした。


 その後、光がその爆炎の中から出てくる様子はなく、

「何とかなったかな……」

 安堵の独り言を漏らした瑠美はその場を後にした。


 行き先は本来向かうはずだった、ステルスヘリが到着するアリーナだ。






「が……ア……光様」


 死に絶える寸前の従者を見下ろす天城正人。街での戦いは終了した。


 天城正人と、八十葉、源家の防衛軍は、結果1500人以上の襲撃者と戦い、前日まで栄華を誇った源家の街はすでに完全な滅びを迎えた。


「光は、為すべきことをしにいった。看取るのは俺だが、何か言いたいことがあるなら承ろう」


「天城……様、なんと、あなたほど……のお方が」


 天城正人もいたるところから血を出している。


「野郎どもを倒してたらレアな敵に目をつけられてな……久しぶりに楽しい戦いだったぜ」


「光様へ、貴方は生きて……くださいと、私はあなたの元にお仕えできたことが幸せでした、とお伝え頂ければ」


「分かった。人間でありながら最前線で戦った勇者たるお前の言葉。必ず光に伝えよう」


 長年、光に尽くしてきた近衛は、最後、光の命令でここで戦い、そして全滅した。徳位の近衛がこうも容易く全滅する。


 八十葉家を少し認めていた天城正人は、その事実に世が決定的に変わってしまう恐怖を押さえられなかった。






「御門様……ありがとうございます」


 一方、教育機関で育てられる子供たちが暮らす地での戦いも優勢に傾き、残りの処理を自分の部下と源家防衛隊に任せ、御門は無事に助けられた人間の子供を数える。


(最終的に435人か……なんてことだ……)


 助けた源家の子供が数人、御門有也に寄ってきて、

「御門様……お怪我、大丈夫ですか?」

 と今にも泣きそうな声で尋ねる。御門も度重なる戦闘を行い、数か所の打撲と火傷を負ったが、その結果、敵の幹部クラスをほぼ1人で全滅させた。


「大丈夫だよ。僕は、倭の中でも最強の御門家当主だからね」


 子供に微笑んで答えを返したものの、内心は沈んでいた。


(……僕は愚かだな。6年前莉愛を見殺しにし、今度は島1つすら守り切れないのか。御門家の当主が聞いて呆れる)


 御門は自分を心配してくれた子供に微笑みかけ、そして本家の方を見る。


(奨くん。光。まだ負けるなよ……まだ死ぬなよ。僕も今からそっちに向かう。それまで耐えろ)


 残りの呪符は数枚。そして保有テイルも、天城と同じく最大値の3割しか残っていない。


 御門はたった1人、本家へと向かう。源家、御門家、その他の〈人〉の一族から借り受け、そしてほとんどが死に絶えた、その骸が転がる道を走っていく。






 ヘリが上空にとどまっているのは、フラムの着陸の号令を待っているからだった。フラムは十分前に見たのと違う今のアリーナの様子を見て、自身の目を疑った。


 しかし、文句は言わない。その現実を受け入れて、睨んでくる少女を見る。


「他の2人は?」


「死にました」


「そうか。なんで抵抗した」


「逃げようと思ったからです」


 フラムは念のため、明奈1人しかいないこの場に似つかわしくない武装をする。〈宙踊器〉により、8本の刃が宙に浮き、さらにフラムの手には、剣が握られる。


(嘘かもしれないが、明奈を手に入れておけば、奨は釣れるな)


 目の前にないものを追うのではなく、目の前にあるものを油断なく確実に入手すること。それがフラムのした決断だった。


 フラムは通信装置を使いヘリを下すように指示する。そして、明奈を確実に手に収めようと近づいてくる。


 明奈はここでようやく、自分の中の感情に悲しみが生まれるのが分かった。自分から犠牲になっておきながら、このようなことを言えた義理ではないが、それでも思わずにはいられない。


(先輩……ごめんなさい。私……死にます)


 明奈はうつむく。


 あれだけ守ってもらったのに、あれだけ優しくしてもらったのに、そのすべてを無駄にしようとしている。


 それだけはただ1つの後悔だ。それでも、自分の我が儘に付き合って戦ってくれた華恋と聡を見殺しにできなかった。


 ――だからこそ、その声は嘘だと思った。

「明奈、伏せろ!」

 ――否、本当は、助けて、と心のどこかで思っていた。


 聞こえた声を信じ、明奈は伏せた。


 聞き覚えのある発砲音、そして上を何かが高速で通り抜けたのが分かった。


 フラムは剣でそれを防ごうとしたが、何かに気が付いたのか受け止めるのではなくシールド張ってその場から、フラムは斜め後ろに飛び退く。シールドに円形の穴が穿たれ、そのまま貫通していくのを目撃した。


 この場に現れたのは1人ではなかった、明奈が研究側の出口を見ると、自分に駆け寄ってくる人影ともう1人。


 上に向けて矢をつがえ、そして放つ弓兵の姿があった。


「ヘリ! すぐに障壁を!」


 フラムの叫び声に答え、上空で徐々に降りてきたヘリがシールドを展開する。しかし、放たれた矢はシールドを容易く貫通し、そのまま機体を貫通。開けられた3つの穴を起点に爆発を起こし、無惨に破壊された。


 フラムは瓦礫の下敷きにならないように、上空に大きなシールドを展開。落ちてくる瓦礫を防ぐ。


 明奈は自分のところに来た男を見た瞬間、目から自然と涙が浮かんでしまった。


「せん……ぱい……!」


「待たせて、すまなかったな」


 自分が待っていた先輩に触れられるだけで、とても暖かくて、心が安らいで、それ以上を望まないほどに幸せで。


 明奈は、涙を流しながらもその顔は本当に笑っていた。明人も明奈との再会に、笑みを浮かべてぎゅっと抱きしめる。


 恥ずかしさ半分と嬉しさ半分。


「ごめん。少し、こうさせてくれ」


 そして5秒、力強く明奈を抱きしめ、その後、割れ物を扱うかのように明奈をゆっくりと体から離すと、

「和幸、明奈を頼む」

 とだけ言い、フラムの方へと歩き始める。先ほどまでと違い、明らかな敵意を向け、右手に銃を持っている。


「聡は?」

 

 和幸は当然と言える質問を明奈に向ける。明奈はフラムに気づかれないように小さな声で先に逃げたことを伝える。


「外にか……そうか……無事、だといいな」


「追いかけないんですか……?」


「今は君を守ろう。あいつの頼みだ」


 弓を構え、徐々にこの後起こる戦闘の巻き添えを食らわないよう、明人から離れるように明奈を誘っていく。


 明人とフラムが向かいあう。


「君如きでは相手にならない。死にたくなかったら」


 明人は意味ありげに皮肉を含めた笑いを見せた。


 その時。フラムは信じられない光景を目の当たりにする。空中を舞う〈宙踊器〉の刃が、まるで重力に負けたかのように墜落して、そしてフラムが命令をしても全く動かなくなった。


「手の内が知られるというのはそういうことだ。人間の俺はそれくらいして対策してだが、やっとまともに戦える」


「なるほど。人間らしいか。僕に対する皮肉にも聞こえるな……」


 もはやフラムが使えるのは手に持つ剣のみとなった。これではただの剣士と大した違いはない。


 フラムは一度目を閉じる。次に開いたとき、フラムは明人へと殺意を露わにした。


「どのみち君たちは殺すけれど。僕は、奨を取り戻したいと思っている」


「取り戻すだと?」


「君たちがいなくなれば、僕たちのところに来てくれるかもしれない。そういう期待も含めて僕は君を殺そう」


 フラムは剣を構える。


 明人は銃を構える。


 フラムが剣の範囲に明人を捉えるために走り出した。同時に明人は銃口をフラムへと向けた。

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