第52話 What is this trick? 「明人は気づいた」
久しぶりに奨、明人、明奈という3人だけとなり、3人は光に教えてもらった食事宴会室へと足を運んだ。部屋に入るやいなや、迎賓館スタッフが3人を出迎え席へと案内した。窓際のテーブル席に座らせられて料理を選ばされる。
「うわ……お値段が」
明奈はメニューを見た時、その見た目と値段に圧倒される。
一方、奨と明人は慣れた様子でメニューを一巡すると、
「俺は和風13コースで、主食は普通の白米でいい」
「俺は洋風8コース。リゾットにしようかなぁ」
一瞬で決めてしまった。
「うう……」
「まあ、ゆっくり選ぶといいさ。なんにせよタダだからな」
明人は明奈と一緒にメニューをのぞき込んで、いろいろと提案する。外から見ればそれはさながらカップルのようだった。
(お似合いだよ、お前ら)
そんなことを思いつつ、奨は窓の外を見る。本日は晴天なり、と呟きかけて一瞬、島を覆う結界の色を目撃する。
島に張られた結界は普段は透明で見ることはできない。結界が見えるのは、主に結界が消えたり、強化されたり、攻撃されたりなどの何らかの刺激があるときだけだ。
島の各地に取り付けられている監視カメラの映像を閲覧する。奨が以前に度々出かけていたのは島にこのカメラを仕掛けるためでもあった。
「あの、私、肉魚味わい5品コースで」
明奈もようやく自分の食べる者を決めたようで、
「承りました、では――」
今奨達が頼んだ注文を復唱し内容を確認して、店員は席を離れる。
奨は2人に余計な心配を今与えるべきではないと判断しカメラを映像を切った。
「明奈、何かされなかったか?」
「え、はい。私は大丈夫です」
「よかったよ。親人間派が多いとはいえ、安全とは言い難いからな」
ここでもう前菜が来てあまりの速さに明人も驚いたが、おいしそうな見た目に驚愕よりも期待が大きくなった。3人分しっかりと配膳され、一口。一同は舌鼓を打った。
「美味い……そして上品。さすが迎賓館の、って感じだな」
「ああ。そうだな。しかし、こんなにささっと料理が出てくるとは意外だった」
「はい。とても」
奨が1枚写真を撮り、そして何かをメモし始める。
「おい、お前、まさかこんなところでも?」
「そうそう、いい機会だからさ。明奈も日記に食べたものについて詳しく書いておくといい。他の作品に影響を受けることも勉強だぞ」
「作品とか言うな、なんでお前は食が絡むとおかしくなるんだおい」
明人は呆れながら、次の料理を運んできたウェイターに謝り、料理を受け取った。残念ながら奨は、明人の柔らかな反論程度で自分を曲げる男ではない。結局明奈もそれを真似して、奨のノートを真似しながら2人で何かを書いている。
明人はため息をつきながらもそれ以上は文句は言わない。
「明奈、これうまいぞ。書いてるみたいだし。食べさせてやるよ。あーん」
暴挙に出た明人。今度は奨がツッコミに入る。
「おい変態。人前だぞ、やめろ恥ずかしい」
「なんだよ。お前も異常行動してただろうが、俺の方がまだ正常だぞ。まあ、明奈が嫌ならやらないけど」
「私はいいです……、い、いただきます」
「明奈、やめなさい。他に人に見られたら恥ずかしいぞそれ」
「でも、私にとっては先輩の方が大切ですから」
明奈のその言葉に、奨と、主犯の明人までがフリーズする。
最も、2人が止まった理由は全く違うものだったが。奨は嬉しさ3割と、そんなことを気軽に言うもんじゃない、という衝撃によるものだったが、明人の方は顔を真っ赤にしている時点で言うまでもないだろう。
食事を終え、大きなあくびをする明人。リラックスしている状態では眠くなるのも無理はない。奨は同情こそするものの、そのまま寝かせるわけにもいかないので、明人に話しかける。
「お前、光に知恵を貸してほしいって言われてるんだぞ。何か考えてるのか」
光が言っていた謎は2つ。そのうちまず考えることにしたのは、なぜこの島を敵が狙ったのかについて。
「こういうのを考える定石は敵側の気持ちになって考えることだな。これも訓練の一環だ」
奨が明奈にアドバイスをする。そして戦闘前の準備についての訓練の一環として、奨は明奈に考えを出すように指示する。明奈は訓練と聞き、真剣に考え始めた。
しかし、しばらく考えてもコレと言ったことは思い浮かばない。明人が助け舟を出すことに。
「明奈がこの島の子供をさらうことにしよう。今までの事件の様子を見て君は、これが酔狂者の遊びだと思うかい?」
「いいえ。そんなことは……。どちらかと言うと、以前会ったあの〈人〉は真剣だったと思います」
「だよな。冠位の家の捜査力と、戦闘力潜り抜けて、源家に痛手を与えているんだから、相手は相当巧い方法でこの襲撃を起こしている。いわゆる計画的犯行だな。明奈は自分で計画を立てる時はどういうとき?」
「目標を達成するためとか? でも人を攫うのなら別の島でもいいって、光さん言っていましたよね」
「そうだな。子供の売買で強い〈人〉が集まるこの時期に人間攫いってのはな。光さんも言う通り他もあるだろうし」
明奈は人間攫い以外の目的を考える。ここで奨はようやく口を開いた。
「確かに源家でなければいけない理由はあるんだろう。今回襲撃を仕掛けている者が何をつけているかを思い出せば、もう1つ思い当たる動機もあるだろうな」
「もう1つですか?」
「腕輪の話はしたな? 人間を人に変化させる腕輪だ。それを発明した人間の気持ちを考えるのは簡単だ」
奨は静かに語りだす。もう隠す必要もないので、今の奨は半袖のワイシャツを着ていて腕輪がはっきりと見えていた。
「人が支配するこの世界を良く思っていない。〈人〉を殺せる人間をつくりだし、今回のように真正面から〈人〉の連中の支配圏で武力衝突を積極的に起こしている。武力による革命を考えているのかもな」
「武力による革命……ですか」
「まあ、この島で一番それっぽいことをしているのは現状俺ってのがなかなか皮肉だな」
自嘲の意味がこもった渇き笑いを披露する奨。とうぜん同調する者はいないため話が続いていく。
「じゃあ、明奈に質問だ。これまでの話と今までの被害を鑑みて、源家本領をこの時期に狙う理由はなんだ?」
明奈はまたしばらく考える。先ほど貰ったアドバイスの通りに、相手の気持ちになって考える。真面目な明奈はまっとうな答えが出るまで、また5分じっくりと考え、一応の結論を出した。
「もしも本当に革命を起こす自信があるのなら、社会的に見れば、徳位の人間すらも出し抜いたという実績をアピールできれば、〈人〉を恨む多くの人間を勧誘できるかもしれません」
「すごいな明奈。俺がお前の歳だったら、そんな頭のいい回答はできないよ」
褒められたことで、心が舞い上がる明奈。それをなんとか顔に出さないようにする。奨がそれに付け加える。
「まあ、それも大きな理由だろう。八十葉家直下の家ならば徳位の連中も来るかもしれない。明奈の言う通りハイリスクハイリターンだ。しかし、この源家でなければいけなかった理由がまだあるとは思う。それか……」
奨は何かを言おうとして、それ以上は思いとどまった。
「先輩……?」
「いや現実味は薄い話だ。今は源家に狙いを定めたという前提で話をしよう。例えばあらかじめスパイを入れているとか、何度か工作員がここにきて準備をしているとかな」
これ以上の進展はなく、次の話へと話題を変えることになった。なぜ襲撃者が今回の作戦の首謀者や自分に腕輪をつけた存在等の組織に関する記憶がないのか。
「残念ながら記憶が改ざんされた様子はなかった。それは俺も確認したから間違いない」
明人が念を押す。しかし、それではさらに記憶を持っていない理由を考え付くのは至難。
「こればっかりは……、相手の気持ちと言っても、自分達の正体を知られたくないという以外に考え付きませんね」
「そうだな……」
奨も明奈も首をかしげるしかない。ここで明人が別の話題に触れることになった。
「お前俺らがメニュー見てるときに何見てたんだよ」
「監視カメラ映像だ。ほら、仕掛けに行ってただろう?」
明奈がすかさず質問を重ねた。質問に遠慮がなくなったのは、明人の望む通りに仲が良くなってきている証と言えるだろう。
「なんで監視カメラを?」
「いや、島の結界がなんか歪んだように見えたから何か影響がないかと思ってな」
納得を示す一方、明奈はついでにこんなことを口走った。
「確か、脳内の記憶も映像やテキストで見るんですよね……? 襲撃者が記憶の映像を加工したりとかは?」
確かにテイルを使えば画面の前にさらに別の画面をつくることで相手に見せる映像をすり替えることはできる。
「でもそのためには映像を見る人間の近くで、映像を差し替えるためのデバイスが使われる必要があるな。腕輪にそのような機能はなかったとも報告には上がっていた」
奨と明奈が会話を終えたのと同時に、明人の顔が豹変する。それは明奈の今の映像についての質問がきっかけだった。
明人の頭の中で、晴天の霹靂のごとく、1つの仮説が組み上がった。
「あ……ああ!」
光が昼ごはんの前に出した謎を解決するのに十分なピースはすでに存在したのだ。
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