第3話 battle of image「それは魔法のような暴力」

 想像が現実となる。テイルの存在により、己の想像はそのまま武力になる。奨と敵は、相手を殺すため、己の武器を想像をする。


 短刀の主たる傭兵は迷いなく、容赦なく迫る氷の人形たちに挑みかかった。


 接敵。切断。切断。切断。破壊の音色が頭に侵入して、明奈はつい目を閉じてしまう。いかに学校でそういうことが普通に起こりえると学んでも、それは恐ろしいことだと認識してしまった。


「大丈夫だ」


 声を聞き恐る恐る目を開ける。


〈人〉の男が出した氷の人形は決して一体一体が弱いわけではない。源家の守衛は現に手も足も出ず命を散らしたのだから。


 明人が特別だと言った理由は明らかとなった。奨はそれらの殺戮人形の攻撃を凌ぎ、確実に人形の首や足を切断していく。


「馬鹿な……!」


 奨が短刀を振るった瞬間、刃が白く発光し氷の塊に凹凸が1つもない鏡面を作り出す。


 明奈は驚きを隠せない。奨は迫りくるすべてを、持っている武器のみですべて破壊して見せたのだから。動きはあまりにも人間離れしている。


(奨先輩は、人間なのに……あんなに強いの?)


 敵の男は今度は侮りはない。人である彼は自らが保有しているテイル粒子を贅沢に消費し、今度は奨1人では対処しきれないであろう数の武器をこの場に創り出すだろう。


 その生成に一秒程度かかっても、奨はまだ男に刃を当てられる所までには届かない。


 突然、奨はしゃがんだ。同時に明奈は近くのもう1人の先輩が動くのを肌で感じる。


 奨の様子を見守るだけだった明人の右手に、拳銃が創成され握られたのは援護射撃のためではない。


 引き金を引いた瞬間、夜の闇を破る明光の直線が浮かび上がった。


 近くにいた明奈にまで射撃の反動が伝わってくる。大砲かのような轟音と衝撃が明奈の拳銃からとは考えられないほどの威力を誇る光弾。


 射出音がするまで、男は明人が自分を狙っていることに気づかず、反応が遅れる。咄嗟に分厚い氷の盾を何とか想像する。


 しかし、先ほどの轟音と衝撃はこけおどしではない。並みの銃弾など通さない氷の盾を、拳銃から放たれた軽々と食い破り、男の穴を穿った。


「がぁあああ!」


 男はその場で体勢を崩し、膝をつく。奨は己の得物を前に、警戒を解かないまま言葉を並べた。


「老いや病を知らぬ体を持ち、身体機能も、知能や発想も、平均的に〈人〉は優れる。だがそれが、人間という種がお前達より劣ることと同義じゃない」


「生意気な……!」


 奨が止めを刺すべく、男との距離をゆっくりと縮めていく。


 これまで源家では、人間は〈人〉に劣ることを認め、強者である〈人〉のために忠義を尽くすことで人間は生存できるという教えを受けてきた。


 彼女にとって、堂々たる宣言で隷属を拒否する人間の姿はとても異質であり、しかし新鮮であり輝かしかった。


「すごい……」


「だろ? 俺の相棒はすごい奴なんだよ」


 明人は満足げに奨を自慢。


 自分の主となった2人が〈人〉の組織とはまた違った、とんでもない何かをもつ人たち。明奈にはそう感じられた瞬間だった。


 心がバクバク言っている。


 それは今後自分に迫るだろう未知の恐怖と、最初に持っていた諦観が少し薄れるわずかな2人への主への期待。


 明奈の加速する心境に対し、戦場は静かだった。


 戦いは終わった。そう思った矢先、


「……気に食わないが、仕方がない! 来い! こいつを殺せぇ!」

 

 伏兵が現れる。隊長格と思しき男が命じた〈人〉を案じつつも部下2名に命令をして、3人が奨達に襲い掛かる。


「面倒なことになったな」


「奨先輩。私もなにか!」


「明人の傍に。いいな?」


 奨が後ろで心配そうに声を出した明奈に言葉をかけ、再び迎え撃とうと武器を構え、戦闘態勢に入る。


 その時。上空から何かが奨と敵襲の間に割り込む形で墜落する。人型であるのに明奈が気が付くのは着地後だった。


こう様……!」


 明奈がその男を名前を告げる。源家最強の剣と槍と称される2人のうち1人。育て主である源閃や春と同じく、明奈が絶対に知っている男だった。


 身長以上の黒い槍を持った男が、槍を構えて目視した敵へと突撃する。


「鋼、源の次男か」


「伏兵を人間の召使いしか置いていないとは、侮られたものだ」


 敵は恐れず、自身の周りにライトエメラルドに光る半径1寸の球体を50個近く浮かせる。2人分合わせてそれは100を超えるそれは、相手を撃ちぬくための弾丸だ。


 放たれた中距離攻撃は、間違いなく源家次男の鋼に当たる軌道を走っていた。しかし直撃する直前、その軌道が急転、鋼を貫くものは何一つなかった。


「何……!」


 射撃を行った2人がその現象を見て焦りを見せる。光刀を構えて待っている前衛の敵に槍の刃が左から襲い掛かった。


 あまりにも速い斬撃を敵は的確に刃で防御。その衝撃が想像以上だったのか、勢いを殺しきれずに受けた敵は、戦闘の場となったこの広い道のさらに場外へ飛ばされていった。


 続けざまに鋼は投擲の構えをとり自らの槍を相手に向かって投げた。槍は人の力による投擲とは思えない速度で射撃兵の一人に向かい、その体を軽々と貫いた。


 響く断末魔。死者が出ても戦いは止まらない。相手も多少の犠牲は覚悟であり、もう一人の射撃兵が懐に装備していた光刀を持って斬りかかる。


「来い!」


 主から離れてるはずの槍が独りでに動き出し、その持ち主のところへと戻っていく。


 襲撃兵は槍を掴む一呼吸前に肉迫する。光刀の右下からの攻撃を躱しながら戻ってきた槍を掴む。そして、数回の剣戟に己の得物をぶつけ、自身の身に刃が届くのを防いだ。


 攻守逆転。狙いすました槍の刺突が人間に襲いかかる。槍はこれまでと違い蒼いオーラのようなものを薄く纏い、これまでと違う状態であることを示している。


 矛先は間違いなく人間を貫いた。


 鋼はすぐにその槍を抜き跳躍する。直後、先ほどまで鋼が立っていたところに、光刀と同じ色の光が弧を地面と垂直に描く。


 その発生は、先ほど吹っ飛ばされた人間が、立ち直ってすぐに光刀を振ったのと同時だった。


 鋼は空中で再び槍を構えた。先ほどと同じ投擲の構え。しかし先ほどと違うのは、蒼いオーラを、うっすらではなく濃く纏っていたということ。


 射出された砲弾の如き槍は、夜闇を照らす灯よりも数倍の輝きを放って最後の1人へと放たれた。


「く……!」


 敵の目の前にライトブルーの壁が現れる。盾の役割をするそれは、一定の破壊力を相殺し、使用者を守るためのもの。使用者の表情は晴れなかった。恐らく受け側の人間は防御が不可能だと予感していたのだろう。

 

 その予想通り、盾は一瞬すらもその槍と止めることなく砕け、そのままその先の人間へ。末路は、詳しく語るに及ばないが、槍に貫かれるだけでは済まなかったのは間違いない。


 敵襲を片付け奨の近くに歩いてくる鋼。奨は動じることなく、彼を迎えた。


「馳せ参じるのが遅くなり申し訳ない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る