外伝3-22 龍と竜の起こす大厄災
聡は瞬きの間に別のところに転送されていた。
そこは見覚えのある機械竜の操舵室だった。そこには〈影〉の春隊幹部の1人である魔術師、瑠美がバテた様子で助手席に座り、操作をしているのは華恋と水落だった。
「なんで、さっき墜落したはずじゃ……」
その質問には瑠美が疲れた顔をしながら答える。
「私が疑似テレポートをして、機械龍に残った子供をみんな予備のこの龍に転送したのよ。まったく、まさかこれを使う羽目になるなんて」
「念には念を。春様の言う通りでしたね」
「水落の言う通りよ。まったく、もうテイルがすっからかん。しばらくは前線に出れないわ」
そう言いながら画面を展開したのは、やはり下繰り広げられている戦いの様子を見たいからだろう。
「戦闘力だけみれば、春に匹敵するレベルだからね。陽火は。久しぶりに彼女の本気を見られるかしら」
華恋が龍を自動運転モードへと切り替えて尋ねる。
「そんなに強いのですか? あ、別に実力を疑っているわけではないですけど……」
2年も続ければ華恋も立派な〈影〉の一員であるふりもうまくなっているというものだ。今の質問に、聡はぎこちなさを一切感じなかった。
聡も戦闘の後で疲労しているものの座る気にはなれなかった。ただ、その画面を食い入るように見ている。
「そうね……、今から見れば分かると思うわ」
白い破滅の光を纏い、地を割りながら書ける輝きの龍。
体全身を破壊兵器へと変え、触れる者全てを焼き潰し分解するオーラを纏う。これが天樹トメの〈天龍解放〉だ。通常であればその状態のトメに殴られれば跡形も残らずこの世から消滅するが、その攻撃に陽火は間違いなく対抗していた。
それも変なトリックを使っているのではない。単純にそのオーラを相殺できるほどの炎の力でだ。
深緋の炎の槍が陽火の立つ地面を赤く染めた。そして白のオーラと炎がぶつかり合い、中心とする地面にクレーターを作る。
互いにノーダメージを誇った2人は、己の武器を存分に振るう。
トメは破壊の光で覆われた拳と脚で、陽火は炎を灯した槍で。
猛スピードで振るわれる双方の攻撃を、それを見ている全ての人間はすべてを捉えることができなかった。
一撃。拮抗していた戦況を最初に入れたのはトメ。クリーンヒットではないが、陽火を押し込む。
「ぐ……!」
「はぁ!」
続けて襲う蹴り上げを陽火は躱し炎を使い後ろへ推進する。トメは手を抜くはずもなく、距離を詰め続けた。
火炎弾が、地上を走る。それは陽火の生み出した攻撃であり、一瞬で数が50を超えて膨れ上がって襲い掛かるそれを、トメは歯牙にもかけなかった。こむしにぶつかっても無視するのと同じように、ぶつかって爆発を起こしてその衝撃を全て無視して、怒り狂った竜のように陽火へと飛び掛かった。
火炎弾の火力が弱いということはない。着弾した地面は焼く3メートルの穴を空けていた。そんな爆弾をものともしないのはトメの力がいかに高いかを示している。
0距離になった2人の交戦が再び幕を開ける。
槍の攻撃と格闘術が互角に打ち合っているその様はある意味異常と言えるだろう。特に槍の刺突を正面から拳で押し返しているトメを見て、昇は息をまく。
トメの剛撃を2回躱し返しの差しをトメは弾き飛ばす。そこで槍から放たれる炎の量が増大した。それは激しい攻撃の前触れであることは察することができる。
防御体形。トメの構えを見てなお、陽火は槍を振るい、その中に封じられた炎を放射した。
「は……?」
つくづく機械竜の中に居て良かったと聡は、画面の先の光景を見て肝を冷やす。
放たれたそれは龍が口から放つ猛火そのもの。解放された火炎流はその一撃で向かう先、辺り一帯の木々を燃やし尽くし、広大な畑を遍く溶かした。
通常そんな中で、生きていられる人間などいるはずがない。
その大火災の中で白い輝きを放つのを見て。相手がただ者ではないことを思い出す。
炎と貫くのは滅びの光撃。トメもまた、光の龍の裁きの咆哮を放ったのだ。
闇を照らす輝きを見せる大光波を正面から受け、陽火はその濁流に飲み込まれる。
「本当に、陽火って災難な体質よね。どうしてもあの子を頼るときは、パワー勝負になるから大体相手が強い奴ばかりなのよね」
瑠美が画面を見ながら、ため息をつき一言感想を述べる。水落も華恋に至っては言葉が出ていない。
それも無理はないだろう。画面の先は、その戦い方が厄災ともとれる2人が起こす大厄災の光景なのだ。
トメの放った天龍のオーラを練り上げた破壊光の中、陽火は未だ消滅に至らず。
炎を主役させ、その光を貫く深緋の一線を突き撃った。矢となり光を突き進むそれは、トメを捉える。
「ぬぅ……!」
陽火は着弾を認め、自分を飲み込む光を己の炎を焼き払い、一気に突撃する。炎を宿すその槍の矛先、刃で胴を両断するべく振り下ろした。
トメはそれを腕で受け止め、大事には至らない。
両者は向かい合う。
「あんた……これほどの力。どんな修羅を乗り越えてきたんだい?」
「……体に竜がいる。それが私を焼き灰塵へと還す。その体験を1万回超えるほど。やがて炎は私の中に宿り、そしてその竜も血肉となった」
「恐ろしや……。そうして得た力を、世の破滅のために使うのかい……。それじゃ、あんたに救いはないよ」
「我らの女神はこの世を変える。この光景こそ私の救いだ!」
そして互いに再び攻撃を交え始める。
互いに槍と拳を用いる武の腕は互角。その幾重もの激突が激しい火花を散らし続ける。
昇と季里の近くに再び陽火が飛んでくるところを、トメがそこに追いつくことによって戻ってきた。
互いにまだ立ち続け、相手を見続ける。
「大母上!」
孫である天樹俊人が燃え上がる機械竜の中から出てきた。
生存者がいたことに一瞬驚きの表情を見せる陽火だが、すぐに意識をトメへと戻した。
「あんた、無事なのかい?」
「ああ。天樹家の連中はほぼ全滅だ。子供の姿も、俺が守れた者以外いない。してやられたな。俺は外にいたから助かったかもな」
「そうか……それは。安心したよ。昇たちを逃がす奴が必要だからね。そこにいては邪魔になる」
トメは陽火を見続ける。
「ばあちゃん……すげえな……! 勝てるのか?」
「当然さ……負ける気で戦うわけがないだろう?」
昇の質問に気丈に応えるトメ。その声を聞いて昇は安心の笑みを浮かべたが、逆に季里は首を横に振った。
「嘘。……嘘だよ、それは」
「は?」
俊人も同じように暗い顔をしているのだ。その理由を昇はすぐに察することはなかったが、トメの近くの地面に赤い水滴が落ちるのを見た瞬間に、トメが強がりを述べているのだということがはっきりと知覚できた。
「ばあちゃん……?」
陽火は残念そうに語る。
「恐らく……あなたが50歳若ければ結果は逆だったでしょう。〈天龍解放〉というその技、どのような修羅を超えて手にするに至ったか想像するのも恐ろしい。そしてそれを超えてきたあなたは間違いなく一流です」
「……ふん。私としては気に入らないね……。これは私の得た一つの極致とも言っていい。それをこんな小娘に凌がれるとは」
トメは陽火へとまた向かっていく。
「ばあちゃん! 体、ヤバいんじゃないのか!」
「だからと言ってあんたの手に負える相手じゃないだろう。昇、そこで見ていな。あんたと季里ちゃんは守ってやるさ。俊人、2人を守るんだ」
「大母上……死ぬぞ! その解放をその老体でこれ以上使えば!」
「お黙り! なよなよした答えを返すんじゃない! 男だろう! しゃんとしな! あたしは負けない。あんたが信じてくれなくてどうすんだ!」
トメは息を荒らげながらも再び構えをとる。
「陽火ちゃん。あんたは、世界を壊してどうする」
陽火は無視しない。トメの怒りの顔を前にしても、恐れることはなく真摯に応えた。それは春やその他の莉愛の子供が戦う信念。
「莉愛先生の願いを継ぐ。全ての子供が理不尽なく生きられる未来に、お前達〈人〉は……邪魔だ!」
「だからこそ全て滅ぼすと。なるほどねぇ。まあわかるよ。私たちがやっている所業は決して褒められないこともたくさんある。だけどね、悪を滅ぼすために、そこに生きる善なる者たちを犠牲にすることは許されない」
「間違いは正さなければならない!」
「そうだ。だけど、あんたたちは、その方法が間違っているのさ。いいかい、私たちは1人1人は弱い。だからこそ違いという壁を乗り越え、手を取り合って生きていく。それを拒んでしまえばこの世界には憎しみしか残らない」
「革命に犠牲はつきものだ。いつの時代も」
「……その犠牲を私は許さない。この世界には、昇や季里ちゃんのように、間違いを認めても、その中で前に進もうとしている子がたくさんいる。私は、そっちの味方だ!」
「ならば……! もはや分かり合えない。ここで、消えてもらいます!」
陽火は己の武器に封じられた炎をさらに解放する。それだけで辺り一帯が熱により解け始める。
トメはそれに対抗するために体全体に破滅の光を纏った。
両者は天高く飛翔し、最後の激突を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます