外伝3-5 〈影〉幹部、春の直属部隊(後)

 メンバー8人目も同様の反応だったが、登場の仕方が意外だった。


 華恋の前に急に湧いたかのように出現。


「うわ……」


 華恋は思わず驚きの声をあげてしまう。


「失礼。華恋殿」


 自己紹介もしていないにも関わらず、見事彼女の名前を言い当てるというホラー現象が起こり華恋はとても怖くなって表情を歪めるが、それを差し置いて、彼女は春に頭を下げる。他の皆が春と同じように黒と銀の軽装をしているのに対し、全身を忍び装束に似た服で覆っているところを見ると、実はそれほど悪くはないかもしれない。


未唯みい。久しぶりね」


「お元気そうで何よりです。マスター」


「かわー」


 春は手招きをする。未唯はそれに従うと、春はゆっくりとその頭を撫でた。未唯はすこし嬉しそうに目を細める。


「光栄です。私のこと、覚えていてくれて」


「あのね。忘れるわけないでしょ。ここにいるみんな、莉愛先生のところで一緒に育った皆なんだから。……あれ、兄貴は?」


「今は別の任務中でございまして……ここに来られないことを弟子ともども残念だと。明日には帰還する予定ですので、その時改めてご挨拶に来るかと」


「は? 何よ。さっき10人がメンバーって言っちゃったのに、1人足りないじゃない……もう」


 春は口をとがらせる。


「そう。なら勢ぞろいでのパーティーは明日ねー。源家でいっぱい料理覚えてきたから、明日は私が腕を振るっちゃうわ」


 瑠美が突如春の方を向いたのは、春の手料理という言葉に反応したからか。


 聡はその気持ちは分からないでもない。源家では調理実習もあり、春が教育係として来てからは春が実習の講師を務めていた。その時にお手本で出てきた料理はかなり完成度が高く、とてもおいしかったことを覚えている。


 当時の次期当主が夜食や客人への応接用の食事を春が作っていた話も聞いたことがあるくらいだ。

 

「それより、こちら……聡殿と華恋殿でしょうか。マスターの弟子様ですか? お2人では大変なのでは? 私が1人」


 聡の名前も見事いい当ててなお春は驚かない。そういう能力があるのだろうか、と聡は目の前の忍びを見て思った。


「いいのよ未唯。手伝ってほしい時はきちんと言うから。その時よろしくね」


「はい」


 未唯は春に一番近い位置どりで、まるで護衛であるかのように、一歩下がった場所で待機する。


「10人?」


 フラムが首を傾げた。


「春姉。未蓮を入れても僕らのメンバーは9人のはずだ。10人じゃないよ」


「いえ。10人よ。見習いじゃなくて、新メンバーが入るの」


「新……?」


「きっと驚くわ」


 〈影〉の春直属部隊の皆が騒ぎ出す。


「部外者……?」


「せっかく先生のところのみんなでやってきたのに、今更他の連中を入れるのか。それって、総統の命令なのか?」


「いえ。私が推薦した」


 終始置いてけぼりの聡と華恋だが、現状では仕方がない。今は春がチームメンバーとの再会を果たす場面であることは明白だった。


「春お姉ちゃん。私、新しい人怖い。〈影〉で信じられるのみんなと、他のいい人位しかいないから」


「うーん。オイも、ちーっと不安やなぁ。でも天音っち。大丈夫、もしもの時はオイが守るからさぁ」


「……ありがとうございます。頑先輩」


 天音の様子を見た瑠美と陽火も、春に尋ねる。


「リーダー。皆、このメンバーで動けることを心待ちにしていたんです。心中察していただけると」


「姉様のご意向に歯向かいたいわけではありませんが、誰かによっては始末することも考えねばなりません。弟子は別とはいえ、それは我々がチームの団結力を意識するからこそ、まずは人間関係形成から始めようと、見習いから時間をかけて慣れてもらう手はず。その方針とも変わります」


 反対の声を受けても春は絶対の自信で返答する。


「大丈夫よ」


 そしてその存在を察知したのか、春は入り口に注目する。皆も春の様子を見て入り口の方へと意識を向けた。


 春の予感は正しかったようで、すぐにこの場に、新メンバーだと思しき男が入ってくる。


 その姿を見て、聡と華恋がまず驚いた。


「なんで……?」


 腕に〈影〉の証ともいえる腕輪をつけているが、彼だけは前まで例外だった。〈影〉を憎み、源家本島では全力で戦っていたはずの。


 ――明奈の師匠。


「奨。お帰り」


「随分とした歓迎だな。別にその必要はない。俺は、脅されているだけの人質だ。素直に侮蔑の目を向けて、奴隷のように扱えばいい」


「脅してるつもりはないわ。『彼』を助けてあげただけじゃない」


「まあ、そうだな。だから、ここで斬りかかったりはしないさ。安心して、悪だくみを続けていてくれ。俺は、ここで必要な情報を得た後、部外者は早々に去ることにする」


「かわいくなーい! なによー!」


「可愛げのないペットならさっさと殺しに来たらどうだ? 力の差はあの島で明らかになった。行うに易いだろう?」


「なによー! ここはみんなとの再会で喜ぶところでしょう?」


「逆に問うが、これでどう喜べと? 人質にされて、捜してた幼馴染は悪の組織の幹部ときた。正直、悪口を並べてないと精神がもたない」


 今までの流れに反抗して、ただ一人春に生意気な減らず口をぶつけているのは、太刀川奨だった。


 フラムも、瑠美も、そして他全ての春の部隊のメンバーが、先ほどまでの不安そうな顔を一転、歓喜する。


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