外伝2-42 昇の激励
これまでの顛末を如月と林太郎に語った。
他にも同じ寺子屋出身の人間がいるかも知れなかったが、今、昇は再会を喜び合っている場合ではない。まだ外でも中でも戦争は続いている。
「人が多くて他の奴がいるか分からないなぁ」
「呑気なもんだなお前。とにかくデバイスがないんだから、お前は俺らの言う通りにしとけよ」
「……ライバルにおとなしくしておけと言われるのは気に食わないな」
「あのな……」
如月は林太郎と話す昇の体をじっと見る。
そして一言。
「なんか、いい男になったジャン」
「はぁ? いきなり何を」
「何かあったでしょ。なんか纏っているオーラが違うわ。なんか強くなって、昔に比べて遠い存在になっちゃったような」
「ああ、それは俺も見た時思った」
如月の感想に林太郎が同調する。
昇は自分ではそんなつもりはないが、寺子屋ではやってこなかったような実戦の殺し合いやプロとの訓練を経験しているため、その感想は間違いではないかも、とも思った。
寺子屋が襲撃されて、その後ずっと閉じ込められていた2人に比べればいろいろな経験をしてきていることには違いない。
行く先にシェルターが見えてきた。
扉は解放されている。中は広い空間になっていて、混乱が起こっていないところを見ると、季里の言う通り敵が避難しているわけではないことが分かる。
「反逆軍の人が外にいるんだろう? 見たいなぁ」
「ねー」
将来の夢は反逆軍の戦闘員と言うもの好きな2人からすれば、その戦いを近くで見ることができる絶好のチャンスであることに違いはない。しかし、外は外で決死の戦いになっている。邪魔にならないようにするためにも、昇は釘をさしておくことに。
「ここを出たらどのみち京都に行くんだろ。なら、それまで楽しみにしておけよ」
そして林太郎と如月を中に導いた。自分は入らないまま、2人を見送る。
「昇?」
「……俺はやることがある」
「何いってんの? 危険だって言ったのはあなたじゃない」
「俺は今回助けられる側じゃない。いや、いろいろな人に十分助けられてるけど、そうじゃなくて。俺にはまだやるべきことがある。お前らはそこで待ってろ」
昇は今来た道を戻り始めた。
「昇、何をするんだ! せっかく会えたのに」
林太郎の問いに、振り返らず答えを返した。
「死ぬつもりはねえよ。ただ、お前らと生きて出るために、戦える俺はまだまだ頑張るってことだ」
そして走り出す。
向かう先は季里を置いてきた部屋。
きっとそこにいるであろう、真紀と歩庄。
度々聞こえてくる他の人の状況を鑑みれば、歩庄がどこか別の場所に援軍として向かったら、そこにいる仲間が死ぬ可能性が高いことはさすがにわかる。
だからこそ、せめて、あの2人を何とかしなければならないのは、昇の役目だ。
デバイスを起動し、全員に通信を入れる。
「地下の避難者の救出には成功した! 幸運にも中に敵はそれほどいない。だが歩庄が上に陣取ってる。アイツの武器なら1人で皆殺しにできるだろう。このままじゃ、皆を逃がしてもかく乱にすらならない」
一呼吸入れる。
「だから……歩庄は俺がなんとかする! だから、みんなも頑張れ! そして、発電所まで来て助けてやってほしい! 間違っても、外で負けましたなんてことは許さないからな!」
(……そうか)
戦いはあくまで発電所外の裏口の前。
(なら、私も私の仕事をしっかりこなさないとな)
そこで幹部である椎と戦っている明奈もまた苦戦を強いられていた。
椎は双方の腕から大鎌が持つような曲刃を出し、明奈に斬りかかっている。それだけでなく、体のいたるところから刃を出して自由自在というより、もはやなんでもありと言わんばかりの攻撃で明奈を斬ろうとしていた。
対して明奈は左腕が動かない中で右手に持った短剣と動きだけでそのすべてを凌ぐ。しかし相手に隙はなく攻撃が差し込めない。
「ああ! くそ、攻めきれねぇ」
椎は楽しそうに目を輝かせている。
「へへ。左腕が動かねえくせにしぶといじゃねえか」
明奈にはもう1つ銃を使った戦いもできるが、今回はやめておいた。以前の幹部との戦いで使用したテイルの補給がまだできていないからだ。
代わりに、明奈は新しい武器を試していた。腕1本でも戦えているのはその武器のおかげだ。
「しかし、敵ながら天晴だ。だからこそもったいねえ。それほどの腕を持っているのなら、自由に稼いで暮らすことも、お偉いさんにすり寄ることだってできただろうに」
「私の行動はすべて〈影〉に復讐するため。富にも、地位にも興味はない。私自身に価値などないからな。価値があるとしたら、私が偉大な人たちに生かされたという事実だ」
「おいおい、復讐とか。そんなくだらないことのために生きて、戦ってるのか?」
「笑いたければ笑え。自覚くらいしている。こんなことをしてもただの自己満足にしかならない」
明奈はそこで、少し笑みを浮かべる。
「いや、この戦いはそれだけじゃないな」
「ほう?」
「初めて、誰かのために戦ってるよ。今回だけ。……友達、と言っていいのかは分からないけどね」
「ほう……」
連絡は東堂の耳に届いた。
現在相手が多く、大橋での戦いはテイル不足による敗走が危ぶまれるところが、東堂も東堂で手を抜いていたのは事実だ。
それは発電所についたときに誰かと交戦するかもしれない、と言うことを想定してのことだ。
しかし今の報告を聞いてその方針を一転させることにした。
必ず来い。
昇の言葉に刺激され、とにかく発電所へ到達することを最大優先とした。
「吉里」
通信機越しで吉里に連絡を入れる。
「どうしました?」
「これから俺が活路を拓く。だが〈電光撃月〉はコストが高い。きっと発電所までの敵を攻撃するとなれば、俺はきっとそのころにはテイルをほぼ使い切った状態になる」
「どうしたのですか急に?」
「……聞こえただろ。行くぞ、必ず。サポートを頼む」
吉里はしばらく黙り、そして肯定の答えを返した。
「分かりました。そうですね。行きましょう。彼は仕事をこなしている。なら、私たちが負けるわけにはいきません」
「そういうことだ。俺達は戦いのプロだ。素人に舐められるような戦果じゃ、ダメだろう?」
その声はレオンにも届き、
「みんな、あとちょっとだ! 気張れよ!」
アジトリーダーらしく、皆を鼓舞するために叫ぶ。
レオンの人徳がここで露わとなった。
終わりの見えない戦いに疲れと諦めを抱き始めていた皆は、その
「おおおおおお!」
大橋に再び活気が戻り始めていた。
東堂と吉里の会話は他の人間にも聞こえた。
それは幹部と戦っている夢原や早坂、井天2人にもだ。
昇の報告と東堂があえて皆に向けて繋げた通信の中での会話。
その2つで、劣勢を強いられている現状において大きな激励となった。
(やってやろーじゃない!)
夢原は一瞬笑みを見せた。
伝はそれが奇妙に思ったのか、ついこのような言葉を発してしまう。
「何を笑っている?」
「いえ。さあ、あんたの手札は見た。今度はこっちが、本気を超えた全力であんたを超える番よ」
夢原が小刀を向けるその左方。
早坂の動きも徐々に鋭さを増し、劣勢がわずかながら覆りつつあった。
「やる気でてきたねぇ……!」
「否定はしません」
そしてその後ろで虫の駆除を行っている井天2人。
その射撃に冴えが出てきたのも、先ほどの通信と同時だった。
「捉えられてきた!」
「雨、ここから挽回だぞ」
「うん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます