外伝2-EX1(挿入話) 反逆軍夢原隊
島国である倭の中でも、僕が住むこの京都の地は海外から神秘の魔境と評されている。
理由としては数々上げられるが、大きな理由は2つと言っていい。
まず1つ目は京都のこの地は、人間すべてが守護霊に守られていることにある。誰かに極めて過度な、本当に実行するほどの敵意や殺意を持とうものなら、その相手を守護する霊が即刻対処へと動く。体がしびれたり、意識を失ったりで済むものもあれば、命を落とすものもある。人間を軽々と呪い殺せる程度には、守護霊は強力だ。
守護霊は多種多様。この地域で有名なのはやはり十二天将だろうか。京都の地を管理する華族、御門家の幹部十二名の1人の守護霊は朱雀の姿をしていて、三つだけで圧倒されそうになる覚えがある。
そしてそんな守護霊を皆が持っているこの地でも、人間が不審死や行方不明になることが非常に多い。それが魔境と呼ばれる2つ目の理由だ。
「月高く昇る夜、京の都は魔が歩く地獄と化す。魔を出会えば命はない」
好奇心は時に人を殺す。この言葉は比喩ではなく、この世界では現実だ。
13歳の少年『刈谷 壮志郎≪かりやそうしろう≫』が、夜出歩いてしまったのは1つの噂を中等前期教育学校の教室で聞いた話に好奇心を駆り立てられたからと説明すべきだろう。
最近発生した一つの噂。
同級生の『西 内也≪にしうちや≫』は、外出禁止になっている夜、街を走りまわっている不良だという話。
話の発端は、京都の商店街で店を経営している男が息子と監視カメラのチェックをしているときに、それらしき男が映ったという話。その息子が、学校の中で言いふらしていたのを聞いたのだ。
壮志郎にとって内也は数少ない友達だ。そんな彼が危険な夜の出歩きをしているとなれば少しは心配になる。
しかしその話の真偽を内也に尋ねると、内也は必ず言うのだ。
「はははははは。そんなわけないだろ! お前、噂に踊らされる情弱タイプだな。確証無しに物事を判断するのはきけんだぞー?」
しかし、壮志郎には確かに思い当たる節はあるのだ。決して強い証拠ではないものの、壮志郎と内也は、夜、電話で話したこともないし、メッセージのやり取りもしたことがない。夜に一緒にオンラインゲームをしたこともない。
それらはすべて、夜、必ず彼が音信不通になるからだ。メッセージを送っても帰ってくるのは必ず朝になってから。彼に連絡を取ってそれが夜の間に返ってきたことはない。
そういう理由もあって、内也が夜に何をしているのか気になった壮志郎は、その疑問を解くのにちょうどいい機会だと思い、真実を暴こうと外へと出た。
壮志郎の守護霊はそこそこ強いほうであると自負していたし、実際にそうだった。
守護霊は、御門家の人間が、生まれたての赤子に対し、呪術によって護衛用の創造生命のヒナを宿すことで受け取るものであり、自然につくことはない。
対魔用の守護霊は個人が知らず知らずのうちに、己の中の万能粒子を使って育てるものであり、個人の呪術の才能よって差異が出る。壮志郎は他人に比べて呪≪まじな≫いの才能があったようで、それなりに強い守護霊がついたと説明を受けている。
壮志郎も詳しいことは知らないものの、自分は大丈夫だろうという妙な自信は持っていた。
そんな数々の、一言で表せば油断と言える数々は悲劇を起こすことになった。
「おい……れんた……」
自分の守護霊の名前を呼ぶが返答はない。ずっと一緒に暮らしてきた彼と急に別れの時が来るとは思ってもみなかった。
壮志郎はその結果、今、人生最大の危機を迎えている。
危険を感じ取った壮志郎の守護霊はいち早く危険を察知して、敵と判断したその男に襲い掛かるも、その男は笑みを浮かべて守護霊を、壮志郎の理解が及ばない方法で一撃で殺して見せた。
「さて、厄介な邪魔者は消した。まったく、御門の奴らは随分と面倒なことをしてくれる」
不機嫌そうにつぶやくその男。見た目は人間と何も変わりはしない。
しかし、
「さて、誘拐する気分じゃないが、殺すつもりも湧かない。どうしたもんかな、あのガキは」
そのセリフはまさに、〈人〉が人間を襲うという事実がどれほど気軽に行われているかの証明だ。
恐怖で足が動かない。壮志郎はただ、目の前の存在に気圧されながら死を待つしかなかった。
(こんなことで、死ぬのか……)
すべて自分が必要のない好奇心に火をつけてしまったばっかりに起こった悲劇。自分の愚かさを今になって責めた。
(いやだ……いやだ……)
そう頭で思っても体が動かない。そんな自分の土壇場での度胸のなさには心底呆れる。
(死にたくない)
「いいや、ここで殺そう。食えば少しはテイル粒子の足しになるか」
殺される。
人生で初めて感じた死の危険。これまでは守護霊が危機の時必ず助けてくれたから知らなかったのだ。自分で自分の身を守るということがいかに難しいかということが。
壮志郎は、自分の愚かであっさりとした人生の最期を悔やんだ。
その時だった。
自分のすぐ隣を一筋の光が通った。完全に不意打ちだったためか、相手は特に対処をすることなく、光はその男を貫く。
「え……?」
誰かが助けに来てくれたのか。自分勝手な願いが思い浮かぶ。
「くそ……早すぎる」
そしてそれが叶ったことはすぐに分かった。
「きみー? 大丈夫?」
壮志郎の前に1人の女性が現れた。
「あなたは……」
「私? 私はヒーローだよ。あの悪い男を倒してあなたを助けるネ」
壮志郎は自分を助けてくれたそ両手に、小刀が一本ずつ握られているのに気が付く。
そして自分には縁がないと思い、興味を持っていなかった組織のことを思い出す。
この世にある〈人〉に反抗し、人間を守る組織。人々は彼らを〈反逆軍〉と呼ぶ。
「君、そこから動かないように。少しでも動かれると、たぶん向こうの思うつぼだから。具体的に言うと、たぶん見えないナイフみたいなのが飛んできてるんだよね」
「え……そんなものあるの……?」
「あるある。万能粒子を使えば、やること為すことなんでもありだもん。だから私が君を守ってあげるにはそこにいてもらうしかない。おっけ?」
壮志郎はすぐに頭を縦に振った。奇跡のようなタイミングで助けてくれたその人の話を聞かないという選択肢はなかった。
反逆軍の女性。金髪に染めた髪をツインテールにして、その露出も必要以上にやや多め。外見からすれば、英雄を名乗れるような性格をしているとは思えない。
しかし、目の前の光景はその外見から得られる印象を一蹴するほどに、壮志郎にとって感動するものだった。
〈人〉に対して果敢に挑み、そしてまったく引けを取らない。
戦いの素人である壮志郎には何をやっているかはわからなかったが、それでも、強く壮志郎の心に響いたものがあった。
助けられたことが本当に嬉しかった。
おかげでまだ生きられる。
自分の感情の中に沸き上がったのは感謝ともう1つ。
憧れだった。
(なんて強い人だろう。あの人、自分でヒーローって言っていたけど)
壮志郎も男の子だ。かつて、テレビの向こうで格好良く敵を倒し、正義を語るヒーローを見てきた。
少しは大人になり、そんなものは現実にはいないのだとだんだんと感じていたところだった。
しかし、今自分の前で命をかけて自分を助けるために戦っているのは、まさにヒーローじゃないかと、壮志郎は思った。
(格好いいな……!)
自分のあんなふうになれたらいいな。
本当に、かつてヒーローになりたいと将来の夢を語った頃のような、あまりにも子供っぽい理由だった。
しかし、この出会いは、そして抱いた感情は壮志郎を心を、そして生き方を変えるのには十分な理由となったのだ。
「お前……!」
壮志郎の隣に1人、まさかと思えるよく知った顔が見えたのはちょうどその時。
「ウッチー! その子連れてって!」
「隊長、大丈夫ですか!」
「私を誰だと思ってるの? あなたの師匠でしょ」
「そうですね。では、後ほど合流を!」
「オッケー! ウッチー、しくじんなよ!」
壮志郎は新しく現れたウッチーなる人物に無理やり引っ張られてその場を後にすることになる。
壮志郎は最後の見えなくなる一瞬まで、連れられながらも、自分を助けてくれた女の人の勇敢な戦う姿を目にしていた。
しばらく走り。
反逆軍の本部であるセントラルタワーの近くに到着したとき。ウッチー、ではなく内也が壮志郎に話しかける。
「お前! なんで夜中に出歩いてんだよ!」
急に怒鳴られたがそれも当たり前のことだ。危険であることは今日の体験で身に染みた。
「……ごめん。その、お前夜歩いてるって噂、気になってさ」
「はぁ。だからって」
「だってお前、夜に電話とかメッセージとか返してくれたことないじゃん」
「ああ。あーそうか。そうだったな。それで気になったわけか」
学校で見る、ふざけ半分の内也とは違う、今はまじめ度100パーセントの彼であることを、壮志郎は感じ取っていた。
「お前、それ」
「ああ。もう隠せないな」
壮志郎は一瞬で、内也がなぜ夜に家に居ないか、その理由を察した。内也は懐から一枚の名刺を出す。
『京都反逆軍 夢原隊所属 西内也二等戦闘官』
内也もまた、先ほどの女の人と同じヒーローをしていたということだ。
「そうか。そうだったのか」
「……なんか気持ち悪い顔をしてるぞ」
壮志郎は自分が今、相手からすれば意味不明な笑みを浮かべていたことに今気づく。
しかし、すごく愉快な気持ちだったのでそれを収めるつもりはなかった。
「すごいな。格好いいな、反逆軍って」
「はぁ? お前何言ってるんだ?」
「ヒーローだ。本当に」
「ガキかよお前……」
「それはまあ、そうだけどさ。でも、すごく格好良かった」
内也は壮志郎の頬をつねる。
「いてて、何しやがる」
「その前に言うことあるだろ。師匠ももう少しで来ると思うから、ちゃんと言えよ」
「あ、ああ。そうか」
壮志郎は自分がかなり失礼をしていたことに気が付く。助けてもらったならお礼をする。感謝の意を伝えるのはマナー以前の問題だ。
壮志郎は内也にも、
「ありがとう。本当に助かった」
しっかりと礼を述べた。
内也は、少し照れながら、
「ま、まあ、助けたのは先輩だけどな」
と一言壮志郎に言い返したが、内心悪い気分ではなかった。
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