4 長崎編

 


「えー、あっという間に4回目を迎えました、【お笑い!!quiz王】。現在までで、まだ正解者がいませんので、全問正解すると、なんと40万円です。おいしすぎますね。

 ご存じのとおり、予選なしのぶっつけ本番ですので、どんなハプニングが発生するか、予測不可能です。

 今回は、飛行機に乗って、長崎にやって来ました。またまた、どんな珍解答が出るか楽しみですねっ!

 わたくし、司会進行を務めさせて頂きます、渡辺ヒロミと申します。よろしくお願いします」


 パチパチ……(見物人の拍手)


「本日のチャレンジャーは、一見姉御風いっけんあねごふういきな着物をお召しになった、三十路みそじをゴール寸前とおっしゃる、極道野津摩世ごくどうのつまよさんです」


「そげん、アゴはよかけん、早よう、クイズばせんね」


「あ、はい。では、


 第1問です。福沢諭吉ふくざわゆきちと言えば、何のすすめ?」






「アク」


「ブー! 残念。学問でした。ア、アクと言うのは?」


「文字通り、あくたい。必要悪という言葉があるやろうが? つまり、この世には悪も必要と言うことや。そうやろう?」


「あ、はい。


 第2問です。一挙両得いっきょりょうとくと似た意味の四字熟語で、何ニチョウ?」






「2丁とくりゃ、豆腐とラーメンたい」


「ブー! 残念。一石二鳥いっせきにちょうのイッセキでした。次の問題です。


 第3問。非常に危ない瀬戸際せとぎわを、何イッパツ?」






「一発とくりゃ、チャカたい」


「ブー! 残念。危機一髪ききいっぱつのキキでした」


「チャカも器機の一つやろうが?」


「は、はい。でも、意味が違うキキですので」


「難しかことは分からんけん、次いかんね」


「あ、はい。


 第4問です。悪い行いはすぐ世間に知れわたるという意味のことわざで、悪事、何を走る?」






「悪事、短距離を走る」


「ブー! 千里を走るでした」


「千里も走る前に捕まえんば。日本の警察はどぎゃんなっとっと。検挙率世界一と評された時代は幻ね?」


「つ、次の問題です。


 第5問です。男は度胸、女は?」






「女は心。顔でもスタイルでもなか。心ばい」


「ブー! 残念。愛嬌あいきょうでした」


「愛嬌なんかまやかしに決まっとろうが。しょっちゅうニヤニヤしとったら気色悪うて堪らんばい。喜怒哀楽きどあいらくがあってこそ、血の通った人間やなかと――」


 ……お、押し。(ADのビビる声)


「ちゅう、中間発表の時間ですが、どっかに置いといて。極道野さんのお話は、いっ、一本筋が通ってて、なんか哲学のようなものを感じますね。じ、実に素晴らしいです」


「そげん、アゴば言わんちゃ、次いかんね」


「あ、はい。で、では、


 第6問です。厚かましく、恥知らずなさまの四字熟語で、何ムチ?」






「アメとムチたい」


「ブー! 残念。厚顔無恥こうがんむちのコウガンでした」


「ばってん、アメとムチは必要不可欠ばい。そげせんといっちょん言うことば聞かんとって」


「……で、ですよね? 同感です。で、では、


 第7問です。状況に応じた行動をとるという四字熟語。リンキ何?」






「リンキは嫉妬しっとやろうが? そんくらいは知っとっとばい」


「ブー! 残念。臨機応変りんきおうへんのオウヘンでした。嫉妬しっとと、知っとっとをかけたわけですね? さすがです」


「はあ? なんば言うとっとか? ダジャレとおべんちゃらはいっちょ好かんとに」


「し、失礼しました。


 第8問です。松尾芭蕉まつおばしょうの句、荒海や佐渡に横たふ、さて、なんとつづくでしょう?」






「あら、海や。サドに横たうマゾかしら」


「ブー! 残念。天の川です。地名の佐渡さどをサドヒストのサドと勘違いされました?」


「勘違いは誰にでんあろうが? 勘違いしたことんなか人間がこの世におるなら、ぜひ、お目にかかりたかもんたい。そげん人間がこの世におっとね?」


「い、いいえ。絶対に存在しないと思います。はい。では、


 第9問です。こまかな気泡を無数に含んだポリスチレンのこと。ハッポウ何?」






「発砲とくりゃ、ハジキたい」


「ブー! ざ、残念。発泡スチロールのスチロールでした。さて、いよいよ、最後の問題になりました。


 第10問です。当日に行って当日に帰る旅行を何帰りツアー?」






「ムショ帰りたい」


「ブー! ざ、残念。日帰りツアーでした」


「ムショも旅みたいなもんたい。旅より旅らしかばい。何年もおるとやけん」


「で、ですね。本日はクイズに挑戦して頂き、誠にありがとうございました。つ、つまらないものですが、これ、参加賞です」


 ポケットティッシュを差し出す。それを受け取る極道野津摩世。


「姐さん、ごくろうさまでした」


 舎弟らしき若い男のが近寄ってくる。極道野津摩世が差し出したポケットティッシュを受け取る若い男。


 カチッ! (ライターの音)


「姐さん、どうぞ」


 極道野津摩世が出したタバコに火をつける若い男。


 プー。(極道野津摩世がタバコの煙を吐く音)


「司会者。邪魔ばしたばい」


 司会者をチラッと見て、歩きタバコで若い男と立ち去る極道野津摩世。


「ありがとうございました。それでは、皆さま、次回をお楽しみに」


 パチパチ……(見物人の拍手)


「おー、こわっ。今度から予選ありにしたほうがいいっすよ。事前に身元確認しないと、おっかないすもん」


 肩をすぼめるAD。


「けど、それじゃ面白味に欠けるのよ」


「オウッ!」


 戻ってきた若い男。


「あああ、ハイッ」


「姐さんが一緒に呑みたいげな」


「エッ? あっ! つ、次の仕事がありまして」


「そげんね? したら、一緒に呑めんて伝えるけんで」


 司会者をにらみ付けて立ち去る若い男。


「おい、みんな。は、早く立ち去ろうっ」


「りょ、了解です」


 大急ぎで小道具を片付けるスタッフ。


 アッハッハッハ……(見物人の笑い声)





―OK!―

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