3 津軽編

 


「えー、3回目を迎えました、【お笑い!!quiz王】。1回、2回と、まだ、正解が出てませんので、本日全問正解しますと、なんと賞金が30万円。正解が1問でも、3万円ですから、おいしいですね。

 えー、予選なしのぶっつけ本番ですので、どんなハプニングやアクシデントが起こるか、予測不可能です。

 と言うことで、今回もどんな珍解答が出るか、楽しみですね。

 わたくし、司会進行を務めさせて頂きます、渡辺ヒロミと申します。よろしくお願いします」


パチパチ……(見物人の拍手)


「本日は、新幹線に乗って、青森にやって参りました。

 チャレンジしてくれるのは、電車賃が勿体ないと言うことで、隣の町から、わざわざチャリで朝市に買い物にやって来たと言う、主婦歴ん10年の、生手根恵ナマッテネエさん、70歳です。

 70歳には見えませんね。どこから見ても、69歳ぐらいにしか見えませんよ」


「そったごとねって。 ばって、一歳でも若ぐ見られるど嬉すいもんだね。ガハッ」


「かわいい70歳ですね」


「 おめ、この歳で、めごいなんて言わぃだっきゃ恥ずがすいわ。ガハッ」


「……では、生手さんへの問題です。


 第1問。りっしんべんの漢字を1つ答えてください」






「りっしんべんてなんだ? 東北弁だば分がるげど。ガハッ」


「ブー! 残念。例えば、女性の性とか憤怒ふんぬの憤などがそうです」


「フンヌって、なんだ? カンヌは聞いたことあっけど。ガハッ」


「……えー、


 第2問です。『叫び』で知られる画家と言えば?」






「叫びてぇのは、おらのほうだ。年金で毎日やりくりしながら、はるばる隣り町から買い出しに――」


「ブー! タイムオーバーです。答えはムンクでした。いろいろ事情がおありのようです。


 第3問。息子はサン。では、娘は?」






「娘は一人おるだぁ。嫁に行って、もう何年になるべぇ。亭主と喧嘩しては、しょっちゅう里帰りさしとっただども、最近はちっとも顔見せねぇだ。孫も大きくなって――」


「ブー! 時間切れです、残念。答えは、ドーダァ」


「どうだぁ、って言われても、どうもこうも、年金でほそぼそと暮らしながら――」


「おっしゃりたいことも多々あるでしょうが、時間の関係で次いきます。


 第4問。またとない絶好の機会のことを、せんざい何?」




「洗剤は、お徳用さ買うだ。でっけぇのは重い分、安上がりだべぇ。毎日の生活費もバカになんねぇ。年金で――」


「ブー! 残念。千載一遇せんざいいちぐうでした。


 第5問です。フランスの小説家ジュール・ルナールの作品のタイトルにある野菜は?」






「野菜ったって、いっぺぇあっぺ。ヒントさくれ」


「英語でキャロットと言います」


「英語なんて、なおさら分かんねぇべ。日本語もろくすっぽ分かんねぇのに。ガハッ」


 ハハハ……(見物人の笑い)


「ブー! 残念。『にんじん』でした」


「へぇー? ニンジンて、カラットて言うだべか?」


「いえ、カラットじゃなくて、キャロットです。カラットはダイヤなどの質量を表す単位です」


「へぇー? タイヤはキャロットって言うだべか?」


「いいえ。タイヤじゃなくてダイヤです。キャロットじゃなくてカラットです」


「カラッとしてんのは、タイヤだけじゃねぇべぇ。ほれ、見ろ。そらもカラッとして、気持ちいいべ。ガハッ」


 アハハハ……(見物人の笑い)


「……ここで中間発表です。うむ、まだ正解はありませんが、生手さん、ぜひ正解して、生活費の足しにしてくださいね」


「んだな。がんばんべ」


「それでは、


 第6問です。 悪いもの、不必要なものを捨てて、よいもの、必要なものを選び取ることを、何せんたく?」






「洗濯は、全自動洗濯機さ使ってるだぁ。ありゃあ、便利だべぇ」


「ブー! 残念。取捨選択しゅしゃせんたくでした。


 第7問です。駅などの、車両に乗り降りする所は何ホーム?」






「老人ホームだっぺ? 娘が、一人暮らしは心配だから、老人ホームに入れ、入れって。……おらぁ、絶対にイヤだ」


「ブー! プラットホームでした。

 ……生手さん、一人暮らしですか?じゃあ、寂しいですね」


「……んだ」


「頑張ってくださいね」


「んだな。がんばんべ」


「日本が抱える高齢化問題は、非常に深刻ですね。生手さん、元気出して、さっきまでの明るい生手さんに戻ってくださいね」


「んだな。心配かけて、すまなかったな」


「そったらことねぇって。……つられてなまってしまいましたが。ねぇ、皆さん、ガハッっと笑う生手さんのほうがチャーミングですよね?」


 パチパチ……(見物人の拍手)


「ほらね。生手さん、笑って笑って!」


「ガハッ」


 パチパチ……(見物人の拍手)


「みんなが応援してますよ!」


「ありがとさん。がんばっかな!」


「では、


 第8問です。天気雨のことを何の嫁入り?」






「娘の嫁入り。嫁に行って、もう何年になるべぇ。嫁いだ頃はしょっちゅう里帰り――」


「ブー! 残念。狐。では、


 第9問です。サザン(3×3)は9。では、ゴゴ(5×5)は?」






「午後は、ワイドショー聴きながら、昼寝するのが唯一の楽しみだぁ」


「ブー! 残念。25でした。さて、いよいよ、最終問題です。生手さん、最後の1問だけでも正解してくださいね」


「んだな。がんばんべ」


「めっちゃ簡単な、


 第10問です。亭主元気で何がいい?」






「亭主が元気な頃はしょっちゅうケンカさしたけんど、それなりに楽しかったなぁや。天国から見てっかぁ?」(空を見上げて手をふる)


「ブー! 残念。留守でした」


 ♪δ~ζ~ξ~φ~ψ~(ロックの着メロ)


「あ、どなたか、ケータイが鳴ってますよ!」


「あっ、おらだ」


「ゲッ」


 カチャッ(ケータイを開く音)


「もすもす。――あんれまぁ、モコミチさん。――今かぁ? クイズ番組さ、出演中だ。――えー? デートはいつにすっかって? ……んだな、土曜か日曜がいいべ。――んだ。――場所か? いつものM∀Cにすっぺ。ガハッ。――いやんだぁ。そったらこと、恥ずかすい。ガハッ」


「えー、話が長くなりそうなので、今回はこの辺で。次回をお楽しみに。さようなら~」


 パチパチ……(見物人の拍手)






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