当選した賞品は

 一言で言えば、その男はパッとしない人間だった。勉強も運動もそれほど出来ず、美術や音楽に長けている訳でもない。

 かといって、それを帳消しにしようとして何か努力をする事もなかった。

 そうすると、必然的に就職は上手くいかず、街の片隅の小さな工場で安月給で働くことになった。


 その日の男は1人、アパートでテレビを見ながら酒を飲んでいた。上司に仕事が遅いと怒られ、愚痴を言える相手も居ないので、安酒を飲んで気を晴らすぐらいしかやりようがなかったからだ。酒を飲んでいる間は嫌なことは忘れられるが、酔いが覚めたら元通りになってしまう。そこも男を悩ませる1つの原因だった。もっとも、この日は金曜日だったから、いくらか仕事に対する不安は紛れていたのだが。


 いくらか酔いが回ってきて、電気こたつに入ってうとうとしていると、テレビから「……て頂いた方には、こちらの賞品をプレゼントを…」

 という声が聞こえてきた。

 見ると、どうやら抽選で10人に家電が当たるというものらしい。

 男はのろのろと起き上がって、ハガキに宛先を書き始めた。

 雑誌の懸賞やテレビの視聴者プレゼントに応募するのが半ば日課のようになっていのだ。

 しかし、それには1度も当たったことがなかった。今度こそ当たるだろうと思いながらやっている内に、後に引けなくなってしまったのだ。

 

 ハガキを書き終わると、男は一昔前に流行した、青いパーカーに袖を通して外に出た。

 時間が遅いせいもあって、街は静まりかえっている。

 その中を北風に吹き付けられ、急かされるように早足で歩いた。


 さっき書き終えたばかりのハガキを投函するため、ポストのある道路の向こう側へ渡ろうとしたその瞬間、1台のトラックが男に向かって猛スピードで走って来た。気が付いた時にはもう遅い。とっさに避けようとしたが、酒を飲んでいたのと普段運動していなかったのが邪魔をした。


 手に持っていたハガキが舞い上がって、ひらひらと体の横に落ちた。


男は、気がつくと、ふと自分が宙に浮かんでいるのが分かった。

 パーカーを赤く染めて倒れている自分、というのを真上から見ている自分がいるのだ。


 大慌てで降りてきたトラックの運転手は電話で救急車を呼んでいるが、たぶんもう遅いだろう。

 男は混乱しながらも自分が死んでしまったのを受け入れた。

夜空を見上げて、せめてひとつぐらいは賞品を当ててみたかったな、と思っていると、

 けたたましいベルの音と共に、

「当選おめでとうございます!!天国への切符が当たりました!!」

 という声が聞こえた。

 見ると、2人の白い天使が居た。


 

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