第140話 野次馬
「……いけない」
突然、おっぱいちゃんの表情が緊張したものに戻る。
そして、おもむろに銃を僕のほうに向かって突き出した。
恐怖でドクンと心臓が踊る。
「ちょっ!?」
彼女は大股で僕のほうに歩み寄ってきた。
「……ッッ!?」
えっ? 殺される!?
突然の展開すぎて、僕の口からは命乞いの言葉も出てこなかった。
わずかな時間でできたことは、死の予感から逃避する為に目をつむることと、本能的に予想できる衝撃から身を守る為に体中を緊張させて身を丸めることだけだった。
死にたくないッ!
パアンッ!
鳴り響く銃声。
「ぎゃあぁぁぁぁっ! やられたあぁぁぁぁぁぁぁ……きゃんっ!?」
あれ???
感じた衝撃は、予想を遥かに下回るモノがお尻に一発。
でも……
「痛い」
「あんたじゃないわよ」
「ふぁ!?」
……生きてる?
僕は恐る恐る目を開く。
僕に背を向ける形で立つおっぱいちゃんの目線を辿れば、5,6m先に一体のゾンビがこちらに手を伸ばして揺れていた。
「……外した」
パアンッ!
パアンッ!
そして二発の銃声の後、ゾンビはドサリと崩れたのだった。
なんだ、ゾンビか。
ひゅーっ。まったく。脅かしやがって。
僕は心の中で「やれやれ」のポーズを取りながら、大きく安堵の息を漏らした。
しかしアレだな。おっぱいちゃんはイキリ君たちとの戦闘を見る限りは相当な銃の腕前かと感心したものだけど、たった5,6m先のノロマな的に対してコレとは、買い被りだったのかもしれない。
「流石に人の相手とは違うわね」
おっぱいちゃんのその言葉に、僕は心の中で納得する。
なるほど、確かに人ならば体のどこかに当てた時点で大きく戦闘力は削がれるもんな。それに対し、ゾンビは頭を破壊するか手足を完全に破壊しない限りは歩みを止めることはないのだから。
それを考慮するなら、3発で5,6mの距離でゾンビに致命傷……要するに頭に行動不能になるほどのダメージを負わせたのだから、やはり彼女の射撃センスは高いということかもしれない。
実際に拳銃を撃ってみれば理解できると思うが、鈍いとは言え動く的に当てることはなかなか難儀なことなのだ。例えそれが数mという距離であっても。
でも……アレ? いま大事なことはそんなことじゃない気がする。
僕は何か重大なことを忘れている気がするのだが。
「囲まれてるわね」
彼女が視線をあちこちに向けながら、そう呟いた。
「え?」
僕は「何が?」と聞き返そうと思った瞬間、唐突に忘れていた”重大なこと”を思い出した。
最初の爆発音。
燃えてる車。
先ほどまでのドンパチ。
そして、いまの銃撃。
そりゃ、これだけ派手にやってりゃ、ガンガン集まって来てるでしょうよ。
街中の
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