第139話 かみいゆ・美談

「すびばぜん、ハッタリかまじでまじだ」


そう半泣きになりながら僕の口がゲロったのは、もう二発ほど蹴りを喰らってからであった。


おいら、痛いのは苦手なのだ。

映画とかで主人公が情報を巡って拷問されるシーンとかよくあるけど、それを観ながら、もし主人公が僕ならば、ペンチとか針とか出された瞬間に余裕でペラペラとゲロるであろうな……と、よく想像したものだ。


今がその時である。

まさか、こんな小娘にこんなことをされる日が来るとは思いもしなかったけど。


丸まりながら恐る恐る彼女の表情を伺えば、さも当然と言うかのように表情を変えていない。その様子から、僕に仲間がいないことについては、彼女はハッタリとかではなく確信を持っていたんだろうな、ということが理解できた。

僕の中にわずかに残っていた反抗心の様なものが、完全に折れる音がした。


「僕、独りでず、はい」


「……よろしい」


おっぱいちゃんはそう言いながら、僕のお尻を軽く蹴り上げた。


「きゃん!?」


そして、ブーツの爪先で僕の顎をしゃくる様に持ち上げ、彼女と無理矢理視線を合わせられた。


「で、アンタ誰?」


「誰って言われても……通り……すがり? です。はい」


おっぱいちゃんの目が更に厳しさを増す。

このままでは数秒と待たずに蹴りが飛んでくることは予想に難しくない。


「本当だって! 実は……」


実はもクソもないが、僕は必死に今までの経緯をかいつまんで説明した。


自分はここの近くに住んでる住人であること。

爆発音が聞こえてきたから様子を見に来たこと。

そして、今回の騒ぎを見つけたこと。


「……という感じで、君がアレな感じだったので、思わず顔出してしまったというワケでして」


おっぱいちゃんの首がすこし傾く。


「アレ?」


「はい。君がアレされそうだったんで、思わず可哀相だなー、みたいな?」


おっぱいちゃんの顔がカーッっと赤くなる。


「きゃん!?」


そして、僕のケツは再び蹴り上げられた。

何故だ。何故なのか。


「見たの!?」


「えっ?」


おっぱいちゃんは銃を持っていないほうの腕で自分の上半身を抱きしめるように隠し、そして内股気味になった。


「そりゃ、まあ……きゃん!?」


そして、再びケツに衝撃が走る。


「……痛い」


「うるさい!」


おっぱいちゃんは涙目になりながら、ズザザと数歩、僕から遠ざかる。

まるでゴキブリから遠ざかるかの様に。解ぜぬ。。。


まあ何はともあれ、蹴りが届かない距離が開いたのは素敵なことである。

会話だけ見れば漫画のラッキースケベシーンかもしれないが、それに反して僕の股間は最大級(最小級?)に縮みあがっているのだ。

唐突に、子供の頃に何度も見た某Zアニメの主人公のセリフを思い出す。


「「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」」


はははははははは!! ザマあないぜ!!


……まあ、ザマあなく教えられたのは自分のほうなのだが。

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