第138話 ちんちくりん
「言ったはずだぞ。僕を人質にしたっからって、仲間が君の要求はのむことはないって」
そう。ハッタリだ。ハッタリを通すのだ。
設定上、僕は交渉役として出向いてきた下っ端であり、他の仲間が待機していることになっている。そして、そのリスクを理解したからこそ、彼女たちは先ほどまで従っていたはずだ。
この優位性。これを通し切らない手はない! ふはは、冴えてる。やはり今日の僕は冴えてるぞ!
「……で?」
「そうだ。命が惜しいなら僕の拘束を……って、『で?』って???」
予想外の彼女の返答に、思わずマヌケな声が出る。
思わず彼女の顔をしげしげと見上げたが、その表情は予想していた怯えや焦りではなく、何かゴミを見るかのような冷たいものであった。
いやいやいや、仲間がいるんですよ?
何その態度?
ここは大人しく僕に従っておいたほうが良いシチュエーションじゃないですか。
馬鹿なの?
この娘は脳ミソまでおっぱいなのだろうか。少し易しめに話さなければならないのかもしれない。
「えっと……、よく聞こうね。僕には仲間がいるので、こんなマネはしないほうがいいんじゃないかなって話をしてるのね?」
「……で?」
「『で?』って……」
いやいやいやいやいやいや、本当に馬鹿なのだろうか。
もしかして、この状況を一から十まで説明しないと理解できない子なのだろうか。
ア〇ペなのだろうか。
であるとしたら、それはそれで厄介なタイプである。面倒臭い!
僕は「はあーっ」と大袈裟にため息をつき、彼女にも今の状況が理解できるような言葉を頭の中で選びながら語りかけた。
「いいかい? 僕には仲間がいるってことは―――ぶべらっ!?」
突如、腹に衝撃を感じて思考が中断する。
予想外のことで再び混乱一歩手前となるが、彼女のモーションから何が起きたかは直感的に理解できた。いきなり腹をブーツで蹴られたのだ。
「がはっ!?」
僕はこの突然の苦痛に耐えようと無意識に身を屈め咳込んだ。
痛ぇ。何するの!? 何なのこの娘は。怒ったぞ!
「……おいっ! 何のつも……ごぴい!?」
背中!
「やめろ! 何を考え……ぎゃん!?」
右肩!
「おい! や……うほ!?」
ケツ!
次々と僕の体に彼女のブーツの先端がめり込んでいく。
彼女のブーツはの久野安全靴タイプと違って普通の革製ブーツの様だし、女性ゆえに非力ではあるのだが、それでも先端は固くて十分に痛い。
その痛みが混乱に更に拍車をかけるのであるが、これだけ蹴られ続ければ理解できることがひとつだけある。
それは、「いま何か言えば、その都度痛い思いをする」という単純なことだ。
「やめて……げふっ」
心が折れかけて語気が下がった僕。
そしてなんとか防御しようと丸まる背中に、彼女のブーツの底の感触が圧し掛かった。
「……そういうの、いいから」
暫しの沈黙。
「……そういうの?」
相変わらずよくわからない彼女の言葉に、僕はオウム返しするしかできなかった。
「おっさん、あんたは独りだ。そうでしょ?」
「……え?」
「仲間なんていないよな、……って聞いてる」
ぎゅう、と、彼女の靴底に力が入るのを感じる。痛てててて。
そして、彼女は呆れたような口調で続けた。
「あんたは脳ミソまでちんちくりんなの?」
……わお、辛辣ゥ!!!
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