第137話 逆拘束プレイ

バシャァ!


「・・・うわっぷ!?」


突然もたらされた刺激に、僕はびっくりして跳ね起きる。

いや、跳ね起きたつもりだったが、起きるどころかもんどり打ってゴン、と頭から地面に突っ込んだ。


……なんだ!?


ほとんど無意識で状況確認をしようとしたのだが、体が思うように動かない。まるで、悪夢から覚めようと藻掻いている時の、意識に体が着いてこない感覚に似ていた。


「お目覚めかしら?」


頭上から声がする。

顔を上げれば、そこには金髪の小柄な美女が、僕に向かってハンドガンの銃口を向け、そして左手にペットボトルを逆さに持って見降ろしていた。


「……え?」


なにこの状況は?

僕は混乱しながらも体制を立て直そうとするが、再び意に反して再び地面に転がることとなった。

先ほどより少し明瞭になってきた頭で理解できたことは、腕や足が思い通りに動かない……と言うより、動かそうとすると地面とキスしそうになるということだった。

防具代わりにスクーター用ヘルメットを被ってなければ大怪我していたかもしれない。


「無駄よ、縛っちゃったから」


おお、ご説明ありがとうござ……じゃねえよ!

なんだって!?


言うことを聞かない自分の足を見れば、両足首を重ねて結束バンドで縛られているのが判った。

また、腕は後ろ手に手首で縛られているのであろうことが感触で理解できる。

そして目の前に広がるアスファルトの染みと、上半身のずぶ濡れになった感覚。


ここで初めて、現在の状況がだいたい理解できた。

何があったかは分からないが、僕はイキリ君とおっぱいちゃんを拘束するつもりが、逆にこちらが拘束されてしまった、ということの様だ。

記憶は彼女がイキリ君を拘束しようとしていたところまで、そして上半身がずぶ濡れなことから、僕は何らかの手段で気絶させられ、そして先ほどペットボトルの水をぶっかけられて目を覚ましたってところか。


周囲を見渡せば、先ほどと変わらず41号線の路肩近く。僕は放置されていた車にもたれる格好で座らされ、そして拘束されていたらしい。

時間はそれほで経過していないらしい。もし長時間経過しているならゾンビに囲まれているか、目が覚める切っ掛けは彼らのお食事になる瞬間であったことであろうから。


くそっ! 油断した。


状況を理解できた途端、突き付けられた銃口に恐怖が膨れ上がるのを感じる。


気を付けていたつもりだったのに、まだまだ認識が甘かったということか。

さっさとイキリ君は撃ち殺して、おっぱいちゃんだけ自分で対応すれば良かったんだ。……いや、そもそも関わらずに立ち去るべきだったのかもしれない。


「あんた、何者?」


声の主であるおっぱいちゃんは、蔑んだような冷たい目で僕を見下ろしている。

上半身の皮ジャンのジッパーはもちろん、すでに下半身はパンツ一丁ではなく、ライダー用と思われる皮パンツ、ブーツで固めてしまっていた。

先ほどまでなら「なんてもったいない」とか思えてたんだろうが、突き付けられた銃口と、それにより最大限まで縮こまっているであろう我がムスコがそれを許さない。


何はともあれ、何と返事すればいいのか。

この状況は俗に言う、「返答次第を間違えたらゲームオーバー」というものではないだろうか。

嫌だ、こんな死に方はしたくない。どうにかしなければ。


そして、僕は最大限に頭を回転させ、こう言った。


「……いい度胸だな。仲間が黙っちゃいないぞ」

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