第135話 縛りプレイ

「……と言うことで、僕が交渉役です」


「……」


僕はライフルをイキリ君に向けながら語りかけた。


僕とイキリ君との距離は10m強と言ったところか。

先ほどのハッタリが余程効いているのであろう。ここまで近づくには階段の折り返し当の建物の構造上の死角を何度か通ってきたのだが、イキリ君は逃げることもなく手を挙げたままそこにいた。


ちなみに、おっぱいちゃんはイキリ君の斜め後方数mの位置で同じく手を挙げたままでいた。

よしよし、いい子だ。そして、いい眺めである。


「あー、頼むから大人しくね。僕も怪我したくないんだ」


僕は彼らに向かい慎重に歩み寄りながら、チラリと後方に目配せをする。「そちらから仲間が狙っているよ」というアピールだ。

本当に仲間がいるのであれば、その位置を教えるというマヌケな行為であるが、この場合は相手に見えない敵は確実にそこに居るという印象を強く与えることになったことであろう。イキリ君とおっぱいちゃんの表情が更に固くなった。


「……本当に命の保証はあるんだろうな?」


「君が大人しくしてれば、たぶん」


僕はライフルの銃口を二人の方向に向けたまま、左手を腰の革製ポーチの中に突っ込んだ。

それを見たイキリ君がビクリと身を震わす。

彼らにとっては極限状態であろうから、僕の一挙手一投足には敏感になっているのであろう。


「動かないで! 安心しろよ。余計なマネをしない限り、危害は加えない」


そして、手にしたモノをポイとイキリ君の足元に転がした。


「ひいっ!」


「だから、ただの紐だってば」


まったく、イカついナリしてるってのに、いちいちビビり過ぎだっての!

こっちも釣られてビビるやんけ。


彼の足元に転がしたるものは、俗に言う結束バンドというものだった。

その名の通り、モノを束ねたりするには便利なナイロン製の紐であり、一旦締め付けてしまうと素手で外すのは困難なものであった。

しかもコレが、配線とかちょっとしたものを纏めるような短くて細いものではない。長さは30㎝はあるし、帯の幅は5㎜、厚みは1㎜はある、鉄パイプとかの大物を纏める為のものである。


「えーっと、そこの彼女?」


ビクンとおっぱいちゃんが身を震わせる。


「いや、ね。その紐で、イキリ君……じゃなくて、その男、腰に後ろ手で組ませて、締め付けてくれないかな?」


そのゴツめの結束バンドは、今回の場合は鉄パイプ等資材を纏めるのではなく、彼らの拘束に使う為に出したのだ。

この用途は、漫画かドラマでいつか見たことがあるものである。いったい何て作品だったかは忘れてしまったが。

とにもかくにも、これで後ろ手で縛られて抜け出せる気は、僕としては全くしない。この場合、僕の持ち物の中では最適なものであろう。


おっぱいちゃんは、結束バンドとイキリ君を交互に見た後、コクンと頷いた。

よかった。とりあえずは結束バンドの使い方は理解しているらしい。縁の無い人には全く縁の無いアイテムなので、もし使い方を知らないとか言われたら面倒だとは思っていたが、それは杞憂だったようだ。


これは、僕がどちらかを拘束作業しているうちに、もう片割れがおかしなマネをしない為の措置である。

まずはおっぱいちゃんにイキリ君を拘束させ、その後に僕がおっぱいちゃんを拘束する。その間、銃口を向けていればそうそうはおかしなマネはできないって寸法だ。

それをおっぱいちゃんは理解したのかどうかは分からないが、まあ、素直に指示に従ってくれそうで何よりである。


「……お、お手柔らかに頼むぜ」


イキリ君は自ら腕を腰で後ろ手に組んだ。

うむ。両者とも、素直で何より。


……なんて油断したのが、間違い……だったのかな?


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