第133話 手を挙げろ

しばらくの沈黙。


「ハァ? 何やて!?」


突然の展開で状況が把握できないのか、イキリ君が大声で聞き返してきた。


むう……。「お前は完全に包囲されている」とか、ちょっとベタすぎたのかな?

もう少し良い言い回しがあったかも。今更ながら後悔が襲ってくるが……、もう遅い。


「いいか? もう一度言うぞ。お前は、完全に包囲されている。意味はそのままだ。分かるな?」


この路線でハッタリを続けるしかあるまい。


「……テメェ誰や? タカじゃねぇな?」


イキリ君の声がトーンダウンする。とりあえずは、完全に未知の相手からの襲撃であることは理解してもらえたらしい。


「タカ? ソイツはライフル持ってた男のことか? とっくにくたばってるぜ」


オマエの嫁ならオレの横で寝てるよ……なんてワードが頭を過るが、もちろんそんなネタを言う場面でないことはわかるぞ。うん。


「……何やて!?」


「まあ信じなくてもいいけど、僕が大声出して存在をアピールしてるってことは、オマエ以外の外敵を排除したと確信しているからだ。その辺り、理解できるかな?」


「クソが、舐めやがって! 姿を見せんかい!」


お、イキリ君もベタな返しをしてきたぞ(笑)

これは良い流れだ。まだ半信半疑かもしれないが、この状況ならそれでも十分に相手を縛り付けることは可能だろうからな。


「……何故我々が、わざわざ姿晒す必要がある?」


僕は「我々」を強調した。とにかく、こちらは複数人であることを印象付けたいのだ。


「卑怯やぞ!」


イキリ君が思いがけない……いや、これもある意味ベタな返しだな。

先ほどまで複数人で一人の女を取り囲んでいたことなど、もう頭に無いらしい。

「お前が言うな」ってやつだ。


「どうとでも言え。おっと、動くなよ」


イキリ君が動きそうだったので牽制する。

動いてくれれば狙撃しやすいポイントに移動してくれればいいのだが、そのまま遠くまで走り去られたらたまらない。流石に、動いている的に弾丸を当てられるだけの自信は無いのだから。


「こちらには腕のいいスナイパーがいる。目の前で頭と体がサヨウナラしてる男を見れば分かるな?」


いや偶然だったんだけどね。

でも、そうとは知らないイキリ君には効果てき面だったようだ。再び、車の陰で固まる。


「クソっ! 何なんだ!? オレ達が何をしたってんだ!?」


いや。逆に君たちがここで何をしていたか、そして何者なのかを知りたいんですけど。


「これ以上の問答は後で聞く。銃を捨てて、手を上げて投降の意思を示すんだ。当面の命の保証はしてやる」


「ぐっ!?」


よし。もう一押しだな。


「いいか。お前を殺したいのなら、もうやっている。事情を聞いた後、我々に危害が無いと分かれば解放してやる」


「ほ、本当?」


イキリ君は急にヘタレた口調になったぞ。

無事に生き残る目が見えてきたことで、多少は緊張が緩んだのかもしれないな。


「大人しく従えば悪い様にはしない。武器を捨てて、手を挙げろ」


「わ、わかった」


イキリ君は拳銃を地面に置くと、車の陰に座り込む形で身を隠したまま手を挙げた。


「いやいや。そこは立つところだろ?」


「ほ……本当に撃たないんだろうな?」


あー、面倒臭い!


「……何度も言わせるな。それとも、殺してほしいのか?」


「ひいっ!!」


僕の苛立ちが伝わったのだろう。

イキリ君はピョンと勢いよく立ち上がる。


「言う通りにした! 撃たないでくれ!」


「約束は、守る。おかしなマネはしないほうが見の為だぞ」

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