第132話 はったり君
どう行動するのが正解なのだろうか。
この場合の「正解」とは言うまでもなく、自分が一滴の血も流さずに勝利できる方法のことだ。
武装を確認しよう。
僕はライフルのマガジンを外す。
ここでも子供の頃に遊んだモデルガンの知識が役立った。
弾丸は2発残っている。薬室に装填済のものと合わせれば、あと3発残ってるということになる。
死体のタカ君の着衣を漁ってみる。しかしながら、予備弾倉や銃弾は持っていなかった。使えないヤツめ。
そして、拳銃。
弾丸は装填済みも含めて20発程度持ってきている。
うーん。普通に考えれば、人ひとり殺すには十分な物量だとは思える。
しかしながら、相手もどれくらい弾丸を持っているのか分からない以上、無駄撃ちは避けたかった。
ムキになって応戦された場合の危険も考えれば、なるべくこれ以上の銃撃戦自体も避けたいと思う。
傍から見れば、こっそりとマンションを降りて死角から不意打ちすればいいじゃないかと思うかもしれないが、相手に僕の居場所を大体とは言え把握された時点でその機は逸している。廊下のものとは様相が違い、階段の手すり壁は所々広く格子で内側が丸見えになる構造になっている為だ。先ほどに勘付かれずに昇ってこられたのは、ただこちらに注目されていなかったからだ。
もし死角があったとしても、僕が移動中にイキリ君も移動してしまって姿を見失うなんてことも考えられる。
何より、これが怖いのかもしれない。この状況で敵を見失うことは恐怖以上の何者でもないのだ。
……ん!? 待てよ。
そのイキリ君であるが、先ほどから言ってる通り、僕の居場所を正確に把握できていない状態なのだ。
ということは、イキリ君は今まさにその「恐怖」に晒されている精神状態であると言えるのではないだろうか。
頭に一条の光が差した気がした。
そうであるならば、この状況を利用しない手はない。
「……ふむ。ハッタリかましてみるか」
僕は一人で納得し、頭の中で一瞬でプランを組み立てる。
そうは言っても、いま適当に思いついた類ではない。かつてより、対人戦になった場合のシミュレーションを色々と妄想していたのだ。その引き出しのひとつ、「相手がこちらに気付いていない場合」バージョンを少々アレンジ……行き当たりばったりともいうが、まあ、実行してみようと思う。
僕は意を決すると、手すり壁に身を隠したまま、再びアルミ格子からイキリ君を見下ろす。
そして、大きく息を吸い込んだ後に声を張り上げた。
「あー。お前は、完全に包囲されている」
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