第131話 はじめてのじゅうげきせん
ああ。やってしまいました。
僕は手すり壁の影に隠れると、ライフルをかかえて天を仰いだ。
銃身からほんのりと熱を感じる、そして、銃口から立ち昇る煙。
そう、殺ってしまったのだ。
確かに、気分が良い光景ではなかった。
……いや、股間を膨らませながらそんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけどさ、確かに気分は悪かったんだ。目の前で行われている展開は、AVとかではなく現実だからな。
でもね、彼女を助けた場合に発生するリスクを思えば、気の毒には思うが、行動を起こすつもりは無かったのだ。
彼女の涙を見るまでは。
僕は、衝動的に引き金を引いてしまったのだ。
実は、咄嗟に狙ったのは、イキリ君の頭だった。
初めて撃つライフルに重心がブレたのか、スコープの調整が狂っていたのか分からないけど、哀れ、イキリ君の向こう側にいた男――陣さんとか呼ばれてたな。彼の頭を吹き飛ばしたのだ。
「おおお、陣!! 陣!! 坂本ぉ! てめえぇぇ!!」
すぐに隠れてしまったので様子は伺えない。
イキリ君のイキリ声が聞こえてくる。
「違う! 違います! 俺じゃないっす!」
次いで坂本クンの弁明が聞えて来た。
「俺、撃ってないっす!」
「ああっ!? 何だ? じゃあ、タカか!?」
「わかんないっすけど、多分。この場には、あとタカさんしかいないっすから!」
タカ???
もしかして、目の前に転がるライフルの元持ち主……、死体クンのことかな?
だとすれば、わざわざ奴らの頭数を教えてくれてサンキューな。残りはオマエたちだけってことだな。
「ごるァァァタカァァァ!! どういうつもりやワレェェェ!! どこにおるんや、出てこいやァァァァ!!」
無理です。タカ君は、ここで死体になってます(ちーん)
手すり壁のアルミの格子からそっと覗けば、イキリ君も坂本クンも車の影に隠れながらであるが、こちらの方向を見上げていた。
ほほう、陣さんとやらの倒れ方や飛び散った頭の部品の方向から、こちらの大体の方角は掴めているようだ。彼らは、思ったよりアホではないらしい。それとも、死体クン……タカ君がこのあたりに陣取ることとかを打ち合わせでもしていたのだろうか。
何はともあれ、まだこちらの確実な位置までは把握できていないようだ。
で、あれば。こちらから仕掛けさせてもらおう。もう、やるしかないからな。
さあて、どちらから先に殺るか。
まずは利き手をやられて戦闘力が低下している坂本クンより、イキリ君を狙うのがスジだとは思う。
しかしね。イキリ君は悪運が強いのか、ここからはちょっと当たらなさそうな場所に陣取っていた。そりゃ、本職のスナイパーが専用装備で狙うならいけるかもしれないけど、僕にはまず無理だ。そして、一発で仕留めない事には流石に位置はバレるかもしれない。この距離で向こうさんの小型拳銃の弾が僕に当たるとはないと思うが、できるだけリスクのない選択をしたいものである。
……と、言うことで。
坂本クン。ごめんね。
君はここから丸見えなのよ。
パァン!
「ぐえっ」
坂本クンが地面に倒れる。
「は?」
流石にヘッドショットは自信が無い。先ほどの陣クンの場合は全くの偶然だ。だから僕は比較的面積が多い胴体を狙ったのだが、その弾丸は坂本クンの右胸に命中したようだ。
「は?」
坂本クンは現実を受け止めてないのか、ガクガクと体を震わせながら立ち上がろうとしている。
「なんだ、これ? 足に力が……ゴフッ!」
そして吐血。
うーむ。肺ですな。
可哀相に、肺がやられた場合は相当に苦しんで死に至るという話だからな。何でも、自分の血で溺れ死ぬとか。暇つぶしで呼んだ漫画にそんなことが書いてあったような。ファ〇ルだったっけ?
……まあ、何はともあれ、あとイキリ君のみだ。
「坂本ぉ! クソッ! タカァ、何のつもりや!」
パァン!
パァン!
「おっと!」
僕は手すり壁に身を隠す。
撃ってきた。二発のうち一発の行方はわからないが、もう一発は5ⅿほど離れたところの天井に穴を空けるのが見えた。当たるとは思えないが、イキリ君の拳銃の銃口の先は全くの見当違いということでもなさそうだ。
僕は身震いする。
着弾は明後日の方向とは言え、これが人生初めて晒される銃撃なのだ。
ヤバイ。これはヤバイ。
嫌な汗が、僕の額にあふれるのがわかった。
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