第70話 退治屋の話①

どこの世界にも、どんな時代にも、悪ガキはいるものだ。

そして、春になると活発になるのは草木や虫ケラばかりではなく、そんな悪ガキどももそういうものらしい。”あの日”以前、パラりラパラリラと遠くから響く春の風物詩があったことからも間違いないであろう。



札幌コミュニティの生活圏より少し離れた建物の影。

そこに5人の人影があった。


「ねえ将吾、本当に大丈夫なの?」


「なんだよ、ただしは相変わらず臆病だな」


「初陣だし、仕方ないし」


「美鈴は相変わらず正に甘いな」


「ヒューヒュー」


「そんなんじゃないし! ただの幼馴染だし! 」


彼らは、迷彩服に腕にはアサルトライフルを装備している。

自衛隊員なのだろうか。いや、それにしては皆小柄だし、顔も幼い。そもそも、幼馴染がどうとか、何の話だろうか。

装備も変だ。ヘルメットを被っている者いない者。とて言うか、美鈴と呼ばれた女の被っているネコ耳のヘルメットは何だ?

また、腰にはナイフではなく金属バットや鉄パイプ、特殊警棒。

ライフルに至っては統一性が無く、M16系、AK74系、FAMAS、SIG77、そして正と呼ばれた者に限ってはM134……通称ミニガンと呼ばれる機関銃を装備している始末である。M134は普通はヘリコプターに固定装備されるような代物で、本来は人間の筋力で扱えるようなものではない。


一体何者なのだろうか。

言えることは、彼らは明らかに正規の組織立った集団ではないということだ。



「ゾ、ゾンビが、怖いワケじゃないから!」


正は顔を真っ赤にして叫んだ。


「じゃあ、なんだよ」


「大人たちにバレたら、怒られる……」


そして今度は顔を青くしながらつぶやいた。忙しい男である。


「ハッ!」


将吾は腕を組んだ状態で人差し指を立てる。


「バッキャロー、逆に大人たちにオレたちを認めさせるんだよ!」 


そして、バアァァァン!と擬音が出る勢いで胸を張る。


「この、キタチューバスターズがな!」


「ううう……、そのネーミングはどうかと思う」


彼らの正体は、札幌コミュニティに保護された、通称北中と呼ばれる中学校に在籍していた子供たちだった。

いつの間にかガキ大将気質の将吾を中心に集まった10数人のうち、特に活発な5人がここに集まっていたのだ。

……いや、正だけは体が大きくて力持ちというだけで無理矢理参加させられているのだが。


その正が異を唱えるネーミングであるキタチューバスターズとはこの集団の呼称であるらしい。ニュアンスから「北中退治屋たち」という意味で名乗ってるらしいのだが、普通に訳せば「北中退治する者」たちとなってしまうので、それダメなヤツじゃん、というのが正の意見なのだ。


「うるせぇ! オレが付けたチーム名に文句あんのか?」


ポカリッと将吾が正を小突く。


「ううう……、ごめん」


正は半泣きしながら、その大きな肩を落とした。

実は他の面々も正と同意見なのだが、体力は優れているがオツムが少々残念な将吾に指摘しても聞く耳も理解することも難しく、下手をすれば暴力で返ってくるだけなのを見越してるので今まで誰もあえて指摘しなかったのだ。

今回の様なアホの将吾と空気が読めない正のはいつものことであり、それについては幼馴染とい美鈴を含め、最早誰も首を突っ込むことはなかったのだが。


「まあいいや。みんな行くぜ! 今日の目標は3匹だ!」


「「おー」」


将吾の元気良い掛け声に対し、皆の返事は棒読みだぞ!

このことから、このキタショーバスターズは将吾に半ば無理矢理付き合わされている集団であることが伺えた。


「さて、中島。一匹目はどこにいるんだ?」


「そうでヤンスねぇ、タロが言うには、ここから真っすぐ北に200mほど行った赤い屋根の田中ってヤツの家に、1匹居そうでヤンス」


ワン!


中島……何故か彼だけ名前ではなく苗字で呼ばれていた。そんな彼だが、細くて小柄だがどこか育ちの良さを感じさせており、そのイメージに相まって頭も少々キレる男であった。

チームの参謀的なポジションなのだろうか。彼は獲物の情報を答え、名前を呼ばれたダックスフンドが誇らしげにワンと一言ないた。


「そうかよ。じゃあ、まずはソイツからだな!」


将吾は腕を組んだ状態で人差し指を立てる。


「行くぜ!! ゾンビ退治だ!!」


そして、バアァァァン!と擬音が出る勢いで北を指さした。


「ううう……、普通にゾンビバスターズで良いんじゃ。。。」


「うるせぇ!」


ポカリッ


再び始まった二人の寸劇の後、彼らは固まって北へと歩き出したのだった。



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