第56話 お召し上がりください

20××年2月3日。


死体の処理は続いているんだけど、慣れてきたせいか、最近になって色々気付くことが出てきた。

それを総合して考察した結果、本件はどうやら始めの頃に思っていたよりは深刻な状態ではない様だと思い始めた。


まず昏睡状態の感染者だけど、意外とまだ生きている者も多いことだ。

だいたいが若い世代で、真っ先に子供や老人が死んでいくのはこの現象でも同じようだけど。

しかし体力のある若者と言っても、どんな力が働けば飲まず食わずで2カ月も生きていられるのだろうか。

よくわからないが、とにかくこの現象は僕にとっては嬉しい誤算であった。全員同じタイミングで死なれたら処理が追い付かなかったであろう。


あと、これはまだ確信ではないのだが、どうやら昏睡状態の感染者の死体は腐りにくい様なのだ。年始の気候が関係していると思ったが、それにしても腐った死体をほとんど見かけたことが無い。

外観の変化も腐っていると言うよりは水分が抜けてミイラ化していくような感じなものが多い。流石に生きてるうちや死後まもなく損壊させた場合は瑞々しかったりするのだが、それも時間経過すればミイラのようになっていくようだ。

何故そう言えるかと言えば……もうひとつの死体が意外と少ない理由にも関係してくる。

それは、ゾンビさんが美味しくお召し上がりになっているからだ。


ゾンビは昏睡状態の感染者は襲わない。

ただし、死肉となった場合はその限りではないようで、どこからともなく嗅ぎつけてきてはお食事としているらしい。大好物ははらわたと脳というのはお約束らしいけど。


お食事が行われた街角や部屋に遭遇した場合、それはそれは素敵な光景と香しきニオイに出会えることであろう。

比較的新しい食べ残しの場合は瑞々しいのだが、ある程度時間が経過したモノの場合は腐るというよりはミイラ化している感じになっているのだ。

そのあたりから、僕は「昏睡状態の感染者の死体は腐らないのでは?」と推察している。


もうひとつ気付いたのは、昏睡状態の感染者の死体には虫やネズミ等がたからない、ということだ。

これも年始の気候のせいかもしれないけど、毎日のように死体とお付き合いをしなければならない僕にとっては、ビジュアル的にも伝染病のリスク的にも助かる。


しかしながら、このあたりの推察は文字通りあくまでも推察だ。

また、腐らずにミイラ化したからと言って無害であるとは誰かが保証してくれている訳でもない。

しばらくはできる限り死体処理をしていこうと思う。



それにしても、何だかんだで余裕が出てきた今だから考えが及ぶのだとは思うが、この死体処理計画(?)はそもそも無謀だったと思う。

今までに処理した死体は約500体。

これでも相当頑張った数字だとは思うけど、名古屋のはずれとは言え人口密度的には焼け石に水なんじゃなかろうか。

先述のような「嬉しい誤算」がなければ、今頃どうなっていたのだろううか。

やはり、独りでできることなど知れているということだろうか。

急に他人が恋しくなってきたぞ。

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