第55話 不法投棄
久々に道中にゾンビが現れた件だけど。
まず「道中」……要するに、霊柩車でどこに向かって何をしているのかを話さなければなるまい。
「といや!」
…………ドボン!
「こりゃさ!」
…………ドボン!
何をやってるかって?
庄内川にかかる橋から、集めた死体を川へと投棄しているんだよ。
最初の頃は灯油やガソリン等で焼いていたのだが、手間がかかることや危険性、そして何より人肉が焼ける不快な臭いとビジュアルに向き合うのが嫌になったのだ。
焼いているうちにゾンビが集まってきてしまう恐れがあるのもあった。
かと言って飛焼いたまま放置するワケにはいかないから場を離れられない。ついでに街ごと燃やしちゃいました、とかは避けたいからだ。
とにかく、嫌気が刺したってことだね。
必要な行動の末に遭遇したゾンビと対峙するのは覚悟の上だが、わざわざその機会を増やすのはナンセンスと言うものだろう。
それに比較し、川への投棄は色々都合が良かった。
ポイポイ捨てるだけど、後は勝手に河口へと運んでくれて大自然が処理してくれるだから。
ゾンビ化の原因が実は猛毒な化学物質で……とかだった場合は危険物を川に流してることになるのだが……まあ、その辺りは考えないことにした。
もし河口に生き残りの人がいたらごめんね。
はじめの頃、死体の運搬方法は車ではなく音の響かないリアカーで運んでは捨てていたのだが、それでもこの動くモノがほとんど居なくなった街では目立つのだろう。結局は時々現れるゾンビたちの相手をしなくてはならなかった。
3度程往復して、処分できた死体は道中に現れたゾンビの成れの果ても含めて12体程度。元々捨てる予定だった死体は5体なので、とてつもない労力の割には結果は残念なものであった。
それでも成果と言えば成果と言えることがあった。庄内川にかかる橋までの道中は放置車両等の障害物はほとんど無く、車両の通行に支障は無いと考えられることを把握できたことだ。
それならば、どうせゾンビが集まってくるなら、いっそのこと車を使ってみようと思い至ったのである。
これは正解だった。
確かにゾンビたちは、広範囲に響くエンジン音、排気音に気付いてやって来るのだろうが、リアカーの時と違ってスピードが違う。障害物の無い道路であれば、容易に振り切れるのだ。
振り切ったと認識すらされずに置き去りにされたゾンビもいるだろうな。
結果的に、ゾンビを相手にする機会が減ったのである。
現れたとしても、轢いて無力化してから対峙すればいいからな。良いこと尽くしである。
最近この道中でゾンビを見かけることが珍しくなった件であるが、毎日何回も往復しては現れるゾンビを退治しているうちに、道中周辺のヤツはほぼ駆除してしまったからだと思われた。
今までの経験上から、ゾンビの習性として「昼間は決まった屋内(おそらくは自宅)に引っ込み、夜に活動する」のではないかと推測している。なので、必然的にゾンビの活動範囲は限定的になってしまうということになる。
要するに、往復経路が活動範囲内だったゾンビはほぼ駆除したということだろう。
しかし昼間も徘徊したり、店舗に出勤していたりと例外も存在する様なのだが、まあゾンビの存在自体が例外と言ってもいい少なさなので、例外中の例外なんてほぼ無視してもいいかとは思う。……油断はするつもりはないけど。
僕はそんな例外ゾンビ達のことを「はぐれゾンビ」と呼んでいる。
倒しても経験値が多く入ることはないのだけどな。
今回現れたのがそのはぐれゾンビなのかは分からないが……まあ、どうでもいいことかもな。最近生活がワンパターンすぎて飽きているのもあり、どうでもいいことでも気付けばグルグルと思考してしまうのだ。
「……よし、今日はこれでラストっと!」
…………ドボン!
僕は最後に先ほど退治したゾンビを川へと落とし、帰路へとついたのだった。
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