第47話 牙突猫式

ドアを開けたら確実な危険が。

ドアを開けなければ騒音でゾンビが集まってっきて更に危険になるかも。


テンパった僕は、ドアを開けなくても攻撃できる手段を咄嗟に思いついた……と言うか、ほぼ無意識のうちに行動に移していた。


「でやあぁぁぁぁぁ!!!」


ドゴッ!!!


あぐぅ……


ドサッ。


ドアの向こうでくぐもった声と、倒れたか尻餅を着いた様な音がする。


「はあ、はあ」


僕が繰り出した「ドアを開けず行った攻撃」とは、跳ね上げ式の覗き窓から風林火山ぼくとうを突き刺すように勢いよく差し込むことだった。

一か八かと言うよりは破れかぶれな一撃であったが、意外なことに効果アリだったらしい。


僕はチャンスとばかりにドアを開け、倒れこんでいる者を確認する。


まっ赤な目。

不健康そうな風貌。


……感染者ゾンビだ!


僕は一瞬でそう判断すると、緩慢な動作で立ち上がろうとするゾンビの胸元目掛けて突きを放つ。

突き刺すような突きではなく、押し込んで突き放すための突きである。まずは完全に転がしてからどうするか考えよう。


そう思って放った突きであったが、ゾンビの突きだされた右腕に当たってしまって軌道が逸れ、額に突き刺さった。


ゴンッ!!!


ものすごい勢いでコンクリートの床で弾むゾンビの頭。

そして、ピクリとも動かなくなった。


「……ありゃあ~」


気絶したのだろうか。

しかし、あんなに見事にコンクリートで弾む頭なんて初めて見たぞ。

ちょっと悪いことをした気がしないでもないな。

まあ、結果オーライということにしておいて、この大柄の男のゾンビの手足を拘束し、タオルで猿ぐつわをしておく。

ふう、とりあえずはコレで一難去ったと考えていいだろう。


うーん、コイツは見かけない顔だな。このマンションの住人では無さそうだ。

この辺りをウロついていて、偶然僕の部屋の生活音でも聞きつけて上がってきたのだろうか。

歳は20代後半から30代中頃ってところだな。

てか、重そう。

コレ、どーしようか?


……なんてブツブツと男を観察していたワケだが、ここである重要なことに気付いた。


あれ? コイツ、息してないんじゃね?



————————————————————————————————————


これは困ったことになった。


僕はベッドの上で腕組みしながら胡坐をかいてムムムと唸っている。

胡坐の上では、そこが定位置かのように茶々丸が丸くなっている。

こちらは軽く修羅場だと言うのに、なんて呑気なことだろう。

茶々丸よ。オマエの飼い主しもべは連続殺人犯になってしまったんだぞ。


この事実は数日前なら死刑判決をくらっても不思議じゃない状況だ。

特に今回は401号室の件とは違って、まだ襲われたワケでもないのに一方的に暴力を振るってしまったんだからな。

確かに騒音は迷惑である。夜中にあんな行動をすれば何らかの罪に問われることにもなろう。

しかしながら、騒音の報いが殺されることとは、これは吊り合いが取れてないのではないか。


僕は再びムムムーっと唸った後、こうつぶやいた。


「ま、いっか」


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