第48話 もうひとつの攻防

「ま、いっか」


そう、目撃者は誰もいないからな。

黙っていれば誰も気が付くまい。

もし何かの拍子にバレたとしても、経緯ばかりは僕の言い分を信じると言うか呑むしかないのだ。


いま、僕はゾンビに襲われ、止む無く応戦したら打ちどころが悪かったのか死んでしまった。

……うむ、完璧なシナリオだ。

そういうことにしておこう。


僕は昨日今日と、人を風林火山ぼくとうでブン殴ったり、そうでなくても無抵抗の者を拘束し放置するという、一昨日おとといまでは考えられなかったような、傍から見たら立派な犯罪的行為を繰り返してきたのだ。

もっと言えば万引きとかもあるな。

その都度「仕方がなかったんだ。でも……」などと罪悪感から自問自答してきたが、ここに来て自分の中で答えが出たのかもしれない。


それが、「ま、いーか」の精神である。


この次々と襲ってくる非日常の中、いちいち気に病んでいたら身が持たないということだ。

山田さんたち札幌コミュニティの「緊急時の応戦によるゾンビへの危害は止む無し」という方針を聞けたことも大きいのもあるかもしれない。

「だってみんなもそう言ってたもん!」というのは、平常時では情けない言い訳のひとつではあるが、究極の緊急時である今は心の支えとなるワードなのである。


ヘッヘッヘ、一人殺るのも二人殺るのも同じなんだよ……というドラマの悪役が使いそうなセリフを思い出しながら、思わずその時悪役がしていたような不適な笑みをマネしていた。

ふと気が付けば、茶々丸はそんな僕の顔を驚愕するように目を真ん丸にして見つめている。


「なんだよ。最近よくそんな目で僕を見るけど、文句あんのか。オマエのおまんまの為にもこうして頑張ってるんだぞ」


僕はそう言うと共に、アイアンクロ―の要領で茶々丸の頭を鷲掴みしてやった。

……お?、押し返してきやがったな。コイツ、やる気か?

てか、この感覚はヤバい奴だ。

この押し合いせめぎ合いを引いたならば、僕の腕は茶々丸の腕の射程範囲に入ってしまう。

そうなったら最後。僕の腕は茶々丸の飛びつき腕ひじき猫固めからの甘噛み&ネコキックの猛攻に晒されることになる。夏なら血だらけ、冬なら衣類に深刻なダメージをくらう、茶々丸の必殺の攻撃いやがらせだ。

むう、舐めるな。僕は人を二人も殺ってる男なんだぜ。

オラオラァ!!


なんて茶々丸とイチャついてた時である。

プシュン!という音とともにPCの電源が落ち、部屋は完全な暗闇に落ちた。

そして、それに気を取られた僕。

その腕は、見事に腕ひじき猫固めを喰らうことになるのであった。


痛い! 暗い! 痛い痛い暗い!!! 

ひいぃぃぃっ!

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