第46話 部屋まで来たらOKサイン

ベッドの隅に茶々丸の気配を感じる。

こやつは、なんのかんの言っても、僕の近くにいたいのである。

可愛いヤツめ。


僕は「茶々丸」と声をかけると同時に、左手で茶々丸の背中あたりを撫でた。

すると茶々丸は「に゛ゃ!?」という声をあげてビクリと体を震わせた後、飛び上がってソファーの下に走って逃げ込んでしまった。

まるで、部屋に連れ込んだ女子に手を出したら「そんなつもりじゃないの!」って思いっきり拒絶された時みたいだぞ。

その後の女子の汚物を見るような目を思い出してしまった。

……くそう、嫌なことを思い出させやがって。

なんなんだ、いったい!?


なんて軽くショックを受けていた、その時である。


バアァァァァァン!!!


「なんだあーっ!!!」


玄関のドアが、何かでブン殴られたかのような激しい音を立てた。

大ショック!

僕は思わずベッドから跳ね起きる。


バンッ! バンッ!


引き続き、ドアが震える。


「お、おうぅぅっ!?」


これはどうやら何者かがドアを叩いているようだ。

じゃあその「何者」とは何なのか。

こんな非常識なことを行う輩なんて、思い当たる対象は少ない。

真っ先に思い至るのはゾンビである。

もしかしたら人なのかもしれないけど、だとすると呼び鈴も押さずにいきなりドアを殴りまくるとか、そのキチガイ具合はゾンビより怖いわ!

どちらにしても、僕にとってろくな訪問者ではなさそうである。


茶々丸が過剰反応したのもこれだな。

前にも言ったかもしれないが、宅配のにーちゃんとかが玄関のドアの向こうに来てたりすると緊張状態になってたりしてたし。

考えてみれば茶々丸は、僕が帰って来たときまだ2階にさしかかる前なのに歓喜の声をあげ始めるくらいなので、足音を察知し何者かを判断する能力は高いのだろう。


「だ、誰だ!!!」


バアァァァァァン!!!


「ひぃぃぃっ!」


人間である可能性も踏まえ、虚勢を張る為にも大声で問うてみたが、それに対する返事は一段と強烈なドアへの一撃であった。


しまった、失敗したかもしれない。

声をあげるということは、「はいここにちゃんといますよー」と相手に伝えてしまうということだ。

現に、いまだに止まぬドアバン音は、先程までより確信というか歓喜のようなものを感じるぞ。

だいたいにおいて、この訪問者がここにやってきた理由だって携帯の呼び出し音とか山田さんとの会話を聞きつけてのことかもしれないのだ。更に大声を張り上げるとか、愚かしいにも程があるわ。


……まてよ、このドアバン音だって思いっきり大音量じゃないか。

もし訪問者はゾンビで、音を頼りに寄ってくるという仮説が当たりだった場合、この状況はマズいのではないだろうか。

そう思いついた途端、強烈な焦りと恐怖が顔を出した。

一刻も早く、やめさせなければ。


僕は風林火山ぼくとうを手に取ると、玄関のドアの前に立った。

何も考えずにドアを開けた場合、何が起きるかわからない。

突撃してきたゾンビに噛まれるとか最悪な結果が発生しても不思議ではない。

Bカップ娘の時みたいに、ドアを開けた勢いで弾き飛ばすか?

いやでもあれはタイミングが偶然バッチリだったことと、Bカップ娘が小柄だったからってのがデカい。今回のゾンビが大柄の男だったりしたらうまく行くのだろうか?

ああ、もう!

考えている時間はない。


「でやあぁぁぁぁぁ!!!」


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