第27話 ねこが出るか
天井……要するに上階から突然響いた破壊音。
それにより、茶々丸は全速力で再びソファーの下に逃げ込んでしまった。
いったい何なのだろうか。
こんな事態になっていなければ、上の住人が誤って家具を倒したとか、なんかやらかしたんだろうくらいしか思わなかったかもしれない。
……いや、Bカップ感染者の件もあったからな。
上の住人がなんかやらかした線は消えてない。
まあ、その住人とやらは普通の状態ではないのだろうけど。
上階からは先程までではないが未だに物音が聞こえてくる。
何にせよ、何かあってからでは遅い。
僕は上階の様子を見に行ったほうが良いと判断した。
今までなら、面倒臭いことは警察とか他者にまかせておけば良い場面も多かったが、今となっては全てを自分の手で解決して行かざるを得ないのだ。
まったく、面倒な事態になったものだよ。
さて。そうと決まれば行動だ。
感染者とか火事場泥棒だったら危険なため、僕は武器となるものを持って行くことにした。
枕元のベッドの下に手を伸ばす。
「あった、あった」
取り出したるは、ひと振りの木刀。
中学生のときの修学旅行先の土産物売り場にて1,000円くらいで手に入れてからの付き合いであり、今では護身用としてお守り替わりに置いてあったものである。
名は「風林火山」。
木刀と風林火山と言えば、分かる人には分かるネタであろう。
修学旅行から帰ってきて早速、柄の部分に「風林火山」と彫刻刀で彫り込んだのは良いのだが、後に本来のデザインとは上下逆に彫り込んでしまっていたことに気付いて膝から崩れ落ちた想い出がある。
何はともあれ、コレの封印を解く日がやってこようとは。
今こそオマエに新たな名を授けよう。
裏・風林火山と。
転んでもタダでは起きぬ。
若き日の過ちを、僕は今昇華したのだ。
「……風魔烈風剣!!」
僕は小声で必殺技名を呟きながら、思いのままの決めポーズを取る。
「バアァァァァァン!!」と頭の中に響き渡る擬音。
よっしゃ、気合入ったぜ。
もしもの時は頼むぜ、相棒!
ふと視線を落とすと、ソファー下より茶々丸が目を大きく見開いて僕を見上げていることに気付く。
茶々丸は、こんな飼い主を仰ぎ見て、いったい何を思うのだろうか。
そんな目で、僕を見るな。
僕は玄関の扉をそっと開けて階段フロアに出た後、そっと扉を閉めた。
慎重に行かねば。
もし僕の身に何かあった場合、気にかけてくれる存在無きいま、茶々丸の運命は部屋に閉じ込められたまま餓死しかなくなるからな。
階段に足をかけ、足音が出ないようにそろりそろりと登り始める。
さあて。
鬼が出るか、蛇が出るか。
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