第28話 想定外

階段をそろりそろりと昇る。

上階の玄関フロアまで辿り着くと、すぐ異常に気付いた。


(臭せえ…… 何じゃこりゃ?)


今まで嗅いだことのないくらいの悪臭。

なんだろう? 糞便の臭いと生臭さが混じったような、何とも言えない不快な臭いだ。


そして異常はもうひとつ。

401号室の扉が、ほんの少しだけ開いていたのだ。

この扉は油圧で自動的に閉まるタイプなのでその状態は不自然ではあるのだが、原因はすぐに分かった。

スリッパが挟まっているからであった。。


鼻を押さえながら401号室に近付く。

悪臭は増々強くなっていくことから、臭いの元はおそらくは401号室の中にあり、扉の隙間から漏れ出ているものと思われた。

一瞬、いつかネットで見た特殊清掃員の体験談を思い出す。

孤独死で気付かれなかった人の末路のことだ。

最近のテロリストによる処刑動画とか映画の映像技術の発展によりグロ耐性は少々はついているとは思うが、リアルでご対面は勘弁してもらいたいところである。

何だか一気に関わりたくなくなってきたぞ。



……ごそり


扉越しに何かが蠢く気配がする。

先程までの様な大きな音はしないが、確かに動く何かがいるのは間違いなさそうだ。

とりあえず、臭いの元は腐って溶けた死体ではなさそうだな。

この強烈な臭いから察するに410号室内はロクな光景では無さそうだが……あまりオレを舐めるなよ。

出張で2日部屋を空けたら絨毯やバスマット等の想定外の場所にウンコがあったりとか、茶々丸による数々の試練いやがらせを乗り越えてきた僕だ。

ちょっとやそっとのことでは動じないハートが鍛えられてるんだぜ。



僕は裏・風林火山の握り具合を確かめた後、、ゆっくりと扉を開いた。


(ぴえっ!?)


思わず声が出そうになるのを寸でのところで抑えた。


部屋の中の光源は、居間スペースで薄暗く光る暖色系のナイトライト。

そして、僕の背後からは玄関フロアの蛍光灯だ。

そんな薄暗い中、大きなシルエットがモゾモゾと蠢いていた。



(……? 人間???)


それはよく見ると、床に転がる、一組の男女であった。

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