第9話 昼間も悪魔
そう。
何かはわからないけど、大変なことに巻き込まれてしまったのは間違いないみたいだ。
出社だ何だとか言ってる場合じゃなくなったので、とりあえずは自分の部屋に戻って落ち着いてネットででも調べようかと考え立ち上がる。
先に述べた様に、僕の部屋は地下鉄出口……つまり先程までに座り込んでいた場所から目と鼻の先なのだ。
調べものをするにしても、携帯で細かい操作をするよりサッと部屋に戻って落ち着いてPCで行ったほうがよいと考えたからである。
マンションの階段を上る。
まだ2階手前だというのに、茶々丸の鳴き声が聞こえてきた。
足音で僕が帰ってきたことを察知するのであろう。いつもこうして喜びの声を上げるのだ。
普段だってそれで十分癒されるのだが、今日に限っては今のところ唯一確認できる意思疎通を行える存在が彼女である。焦ってパニック気味になっていた心がかなり落ち着いてくる。
「ちゃだいま!」
鍵を開け、扉を開けるとすぐのところに茶々丸が待っていた。
なんだかホッとして、いつも通りの帰宅の挨拶をしながら彼女の頭をひと撫でする。
おまえが居てくれてよかった。
心のどこかで茶々丸すら煙のように消えて居なくなっているような気がしてたらしい。
心底ホッとするよ。
ちなみに「ちゃだいま」とは、「茶々丸、ただいま」と言うのをいつの間にか短縮したものである。
彼女は僕を先導するかのように居間までてててと早歩きし、ゴロンとお腹を見せながら僕の目をじっと見る。
そして僕は、後の展開を理解しつつその柔らかな罠に手を伸ばしてしまうのだ。
「痛いです離してください」
前足で僕の腕をホールドからの甘噛み&猫キック攻撃……「ねこひじき十字固め」を案の定キメられた。
敬語でお願いするのもテンプレである。
……おお、非常事態なのに萌えてしまった。
恐るべき猫パワーである。
あまりにも日常的すぎて今までが何かの間違いだったんじゃないかと頭を過るが、先程までに散々現実だと確認したじゃないか。そろそろ向きあわなければ始まらない。
PCの電源を入れ、ブラウザのトップニュースページを表示させる。
何か現状に繋がる大事件でもあったのであれば報道されていると思ったからだ。
しかし、期待に反して特に変わった記事はない。
芸能人の不倫がどうとか、北朝鮮と韓国がどうとか、アメリカが輸入品に関税を検討とか、全国的に風邪が大流行中とか、高速道路の交通事故で死者2名とか、普段と変わり映えしないものばかりであった。
そこで、テレビを着けてみようと思い至った。
部屋には一応40インチ強のテレビがあるのだが、どちらかと言うとテレビ番組を見たいからというよりはゲーム機のディスプレイとして買った経緯もあり、故に普段は滅多にテレビを着けないからテレビで確認することをすぐに思いつかなかったのだ。
アンテナ線を押し入れを探して取り出し、テレビに取り付ける。
そう、うちの場合、そこから行わないとテレビが見れないワケがある。
以前はアンテナ線を取り付けてはいたのだが、仕事に行っていた隙に茶々丸がアンテナ線をかじってボロボロにしてしまったのだ。
以来、アンテナ線は予備として持ってはいたが、押し入れの奥に隠していたのだ。
余計にテレビ番組を見なくなった原因である。
そう言えば、インフルエンザで自宅謹慎中も見ようという発想は無かったな。
それにしてもまったく……茶々丸は悪魔か。
電源スイッチオン。
とりあえず東海テレビあたりをポチーっとな。
……何も映らない。
おかしいな、NHKあたりなら間違いないだろうと選択してみたが、ここも何も映らない。
僕は適当に次々と局を変えていったのだが、どれも結果は同じであった。
「どういうことだよコレ……」
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