第5話 天使は人の気知らず

 さて、”事故物件”からゾンビの死体を運び出そうか。

 気が乗らないけど、死体が傷み出す前に済まさないと。


 あれは初めて4階フロアからゾンビの死体を外に運び出したときのことだ。

 そのゾンビ、まだ慣れないゾンビ退治ってこともあって半狂乱になって撲殺したんだよな。

 そんな状態の死体を担ぎ上げる気にもならず、足首を持って階段を引き釣り下ろしたのだが、階段の角にガンガンぶつかった死体は脳脳漿や汚物を盛大に巻き散らかし、非常に後悔したものだ。


 次のときはその反省点から”事故物件”の窓から投げ落としてみた訳だが、結局泣きながら地面に飛び散った脳漿等をゴミ袋に拾い集める羽目になった。

 ”事故物件”の真下にマンションの玄関口があるんだよね。グロ放置はさすがに精神衛生上良くないと思ったのだ。

 今は経験豊富となり少なからずグロには耐性が着いたとはいえ、自分の住処周辺くらいは綺麗にしておきたいのは動物の本能だと思う。


 ロープと使って死体を窓から降ろすようにしてそれを何回かは実行したし、実際これが清掃や手間の関係でいちばん適当だとは思ったが、ベランダの柵を越えさせるのに意外と労力がかかるので早期に止めた。


 最終的には階段の半分にベニヤ板を使ってスロープを作り、その板に蝋……正確にはホームセンターにあるトイレにあらかじめ塗っておくと汚れがつかないとか引き戸やタンスの潤滑剤とかを塗って滑りやすさと洗浄しやすくしたものを設置し、緩やかに滑り落とせる仕様にした。

 今ではその出来栄えを試すのに少々楽しみにすら思えるくらいだ。

 それどころか、いつか階段の折り返し部分に工夫をして自動的に1階まで滑り落ちるようなスロープを作ろうとすら考えている。


 ピタゴラゾンビっち!!

 テンション上がるぜ!!


 ……何度も言うけど、慣れとは恐ろしいものである。

 まあ、面倒臭い上に最近は近所のゾンビも減ってきたから、実行はしないと思うけどね。


 現在は主に、死体を1階に下ろしたあとはリヤカーかワゴン車に乗っけて1Kmくらいの距離にある庄内川の橋から投げ捨てている。


 ゾンビの死体とはいえ元人間。

 初めの頃は敬意を払い、できる限りはガソリンや灯油をかけて燃やしたり、そのまま土に埋めたりとか埋葬的なことをしていたのだが、これだけゴロゴロ死体が転がる現在である。自分が倒したゾンビの死体だけではなく道端とか目に付くところの死体まで何体も何体も片付けていくなか、いつからかどこの誰とも分からない腐りかけの肉の塊などに敬意を抱かなくなっていた。

 動かなくなったゾンビは、ただの汚くて臭い腐肉の塊である。


 それどころか、偶然仲が悪かった奴のゾンビと遭遇したときなんて、敬意どころか吊るして小便ひっかけて放置しておいたくらいだ。

世紀末バンザイw



 今回も「霊柩車」と名付けた専用のピックアップトラックに死体を乗っけて河に向かい、そして橋の上から投げ捨てる。

さよなら名も知らぬ肉の塊。自然に帰るんだぜ。


 ……生態系への影響とか知らん。

 聞くなよ。


 それで、ここには用はない。

 後は部屋のあるマンションに帰って事故物件の清掃、消毒、消臭を行って終了である。



 その後は、臭いが気になるので体を洗いたいところだね。


 マンションの近辺でガス湯沸かし器を使ってある上に追い炊き機能がある民家とか部屋をいくつか見繕っているので、臭いとか汗が気になるときは寄って風呂に入っていくこともある。

 都市ガスは止まっているので、プロパンガスを選択している物件を探し出すのには苦労したよ。


 水は雨水を溜めたものをろ過したものを使う。

 水溜用に大きな桶的なものを探し出しひとりで設置にたのはあの日以来結構早い時期のことであるが、これも非常に苦労したのを覚えている。


 以前に見たことのあるこの手の物語等では主人公はより住みやすい場所や物資を求めて放浪したりするものだが、僕は元々住んでいた部屋を中心に未だに生活している。

 放浪先でまた同じような重労働…拠点の防衛強化にゾンビの駆除や死体処理、風呂や食料調達経路の確保等を一から行わなければならないことを考えるとゾッとするところも大きな理由のひとつである。


 まあ、騒音問題の少ないハイブリッド式のキャンピングカーとかで放浪の旅とか憧れるっちゃあ憧れるんだけど、猫を連れてってのは現実的じゃないからな。

 茶々丸はもともと部屋から連れ出すと始終鳴きっぱなしになるくらいストレスを感じる猫だし(病院とか大変だったよ!)、なんのかんので僕自身もストレスが溜まる現在において、茶々丸を案じた結果更にストレスを追加することに耐えれる余裕はないし。


 茶々丸を切り捨ててまで移動しなければならない程、現状が切羽詰まってる訳でもないしね。

 彼女は今や唯一の家族であり、相棒である。

切り捨てなければならないような事態が来ないことを、切に祈るよ。



 ……と、勝手に少々ナーバスになって帰宅した昼下がり。

 茶々丸は呑気にベランダでお腹を見せながら日向ぼっこ&お昼寝ですわ。


 脱力。



 遠くで、ゾンビが発したと思われる奇声が、微かに木霊した。

 ……ああ、今日はなんてのどかな日なんだろうか。




【作者より】

 ここで序章は終わりになります。如何でしたでしょうか。

 最近のトレンドではないジャンルなのか(作者がショボいのか)、

なかなか苦戦しています(笑

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