第4話 天使のお食事事情
でん! ててててー てーってーっ でん! ててれてーれてーててー♪
いまや寝覚まし時計くらいしか用途がない携帯が、耳元で騒音を垂れ流す。
そのBGMは”あの日”前にどこかの有料サイトからダウンロードした「ガン〇ム大地に立つ」である。おっさん世代しかわからないかもしれないが、初代の機動的で戦士的なアレの次回予告とかで使われてた軽快な曲だ。
「……朝か」
この曲をバックに起き上がるときに「俺様、大地に立つ!!」とばかりにテンションが上がり一日が素晴らしいものになるのではないかと思って選定したのだが、以前は好きだったこの曲も、今では安眠から無理矢理現実に引き戻すテーマとなってしまい、耳にする度にテンションが下がる曲に成り下がってしまった。
「君は生き延びることができるか?」
……いや、現在はマジでそんな状況なんだけどさ。
今日も同様にテンションだだ下がりで目を覚ます。これから死体を処理する為に叩き起こされたとなれば、なおさらである。
なら別のテーマに変更すればいいじゃんと思うかもしれないが……変えるのが面倒臭いのだ。起きて数分もすれば、どうせこのことも忘れてしまうのだから。
まあ、面倒臭いのはこんな僕の性格のほうなのかもしれない。”あの日”以前によく友人や元恋人に指摘されたものだ。
「……おまえは気楽でいいよな」
いつの間にか僕の脇腹あたりで丸くなって眠っていた茶々丸をわしゃわしゃと撫でる。
はあ。なんで猫ってどこのパーツに触れてもこんなに気持ちがいいんだろう。
茶々丸ときたら、ゴロゴロと軽く喉を鳴らしながらも、起きるつもりはないらしい。
夜に散々気まぐれで僕を起こすくせに、朝はいつもこんな感じである。
本当に勝手で、気楽なもんだよ。
まあ、そうは言ってみたが、茶々丸のその「気楽さ」に救われてる側面があるのは認めるところである。
この終末世界においても、萌えは必要であり正義なのである。
マジ天使。
僕は茶々丸を起こさないように気を使ってベッドから起き出す。
遮光カーテンの隙間に漏れる日差しからして、快晴の死体処理日和らしい。
そんなことを考えながら最早電気が通っていないウォーターサーバーから出した温い水で喉を潤しながら、カセットコンロで湯を沸かす。
これから、この悲惨で退屈な世界において最も楽しみなお食事タイムなのだ。
ビーフジャーキーの袋とお湯で溶かすタイプのスープを口に含み、ゆっくりと味わう。
途中で「あ、手を洗うの忘れてた」と思い出すも、まあいいかと食事を継続した。
数時間前にゾンビを処理したばかりだというのに「まあいいか」程度。
最近何度も思うが、慣れとは恐ろしいものである。
確かに嫌悪感はあるんだけど、”あの日”以前にもあった「食事の前に手を洗うのを忘れた」と同じ程度の感覚なのだ。
まあ、同じフロアの部屋(303号室)に死体があることを知っていながら安眠できる精神状態となってしまった今、別段おかしなことではないのかもしれないが、何か大切なモノを捨ててしまった気がしてならない。
……どうでもいいけどさ。
再び、ビーフジャーキーをかじる。
茶々丸はいつもなら腹が減っているいないに関わらず「何食べてるにゃ あたいにもよこせにゃ」とばかりにゃーにゃー纏わりついて鬱陶しいのだが、いつかおねだりに根負けして与えたビーフジャーキーがお口に合わなかったらしく、先ほど袋を開けたときに一瞥しただけで今はベッドで目を瞑り丸まったままである。
これはこれでちょっと寂しい。
まあ、猫のエサはありとあらゆる種類のカリカリフードや缶詰をホームセンターやコンビニより拝借してきてるので、茶々丸はあの日以前よりグルメでおデブになってしまっているのだが。
終末後のほうが充実した食生活とか、お猫さまはどんな状況でも人生イージーモードだな。
しかしながら、これらの消費期限が切れる数年後が頭痛いが、それは僕の食料も同じことである。
それまでには、僕らのエサの調達方法を考えないといけないだろうな。
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