第6話:恋の行方
おかしい。
と、火は考えた。
水と油が消えてから、皆落ち込んだり嘆いたりと悲しみに暮れているのに、二人だけ楽しそうに、嬉しそうに過ごす者がいたのだ。
油とり紙と電気の精である。
油とり紙は、油が消えてからというもの、そのつややかさ・妖艶さを増し、和紙やコピー用紙などの紙界のスターに並ぶほどの人気を博していた。
電気の精も同じように、“チョクリュウ”と“コウリュウ”という新概念を発表し、その道での知名度を爆発的に伸ばしている。
あやしい。
と、火は考えていた。
もともと二人とも下卑た性格で、自分のためなら他人の死をも厭わないようなタイプである。それゆえ、皆から嫌われ、敬遠される節もあった程だ。
少々勘の働く火は、どうにもこの二人のことが気になって仕方がなかった。
何かあるに違いない。
そう睨んだ火は、二人をガラス管のところへ呼び出した。
このガラス管というのがまた不思議な物体で、突如として現れた謎のオブジェである。Hの形をしており、その四つの先端から金属の棒が飛び出ているという変な構造で、用途も所属も何一つわからなかった。
火はこのガラス管が、水ないし油の失踪になにか関係しているんじゃないかと疑っていた。
「急に呼び出して一体何なの?この後撮影会があるから早くしてほしいんだけど。」
「私もいまから学会があるのだ。さっさと用件を話せ。」
いらだつ油とり紙と電気の精に向かって、火は静かに尋ねた。
…水と、油のことについて、お聞きしたいことがありまして。
その凄みのある落ち着き払った熱い声に、二人は思わず身震いした。
火は、まず油とり紙に尋ねた。
油さんがいなくなってから、なかなか調子がいいようですが?
「そ、そうね、最近人気が出ているのは事実だわ。でも、油のことなんて一切知らないわよ私!」
脂汗をにじませながら答える油とり紙に、火はつめよる。
…ほんとうですね?
火の熱意と、物理的な暑さにじりじり押され大量の汗をぎとぎと流しながら、油取り紙は答える。
「ほ、ほんとよ!知らないってば!…ぁあ!」――僕はここです!
流れ出した脂汗が一つの大きなしずくとなり声を発していた。
…これはどういうことですか?
火は激しく燃え盛り、油とり紙をどんどん圧迫していく。
「ひいぃ!ゆ、許してください!」――助けて!火さん!
いまや油は元の姿の半分を取り戻しつつあった。
……逃げてはいけませんよ電気の精さん?
「ひいッ!」
こっそり逃げ出そうとしていた電気の精は驚いた拍子に、電磁波をビリㇼと放出した。それはいろんな方向へ飛びだし、そのうちの一つがガラス管の金属に当たった。チカっと火花が散る。
それからは一瞬の出来事だった。
突如ガラス管が爆散したのだ。
油、電気の精、油とり紙、火の四者はもろに爆発に巻き込まれた。火が油の一部に引火したことで、爆発はより大きなものとなった。
凄まじい爆発のさなか、水と油は再開を果たしていた。
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