第3話:界面活性剤の葛藤


はぁ、と界面活性剤はため息をついた。


彼の視線の先には、水と油がいた。

水は油を慕い、油は水に焦がれている。それは周知の事実だ。

そして、物理的に二人が交わることが出来ないということも、知らないものは居なかった。


一つだけ例外を除いて。


その例外に該当する界面活性剤は、大層悩んでいた。


たった一滴、彼らの間に割って入ることで、彼らを混ぜ合わせることが出来る。


界面活性剤は、自らの親水基と親油基という性質を利用することで、

油分子を包み込み水の中に分散させる

または

水分子を包み込み油の中に分散させる

ということを成すことが可能であった。

それは、実質両者がお互いに溶け合っている状態を創り出せるということだ。


水も油も、界面活性剤の古くからの親しい友であった。それゆえ、界面活性剤は二人の仲立ちをしたいという思いを強く強く持っていた。心から二人の幸せを願っていた。自分の手助けで、古くからの二人が結ばれるならこれより本望なことはないというほどに。


しかし、それは見せかけに過ぎない。


界面活性剤が見たいのは、あくまで水と油の融和。

そこに自分という不純物が入ることなど、全くもってあり得ないことであった。

彼らが望んでいることも、水と油のみから構成される混合物であるはずだ。界面活性剤が混入するなんて間違いがあってはならない。


それに、水が油の中に溶け込みたいのか、はたまた油が水の中に溶け込みたいのか、界面活性剤には想像もつかない。これを間違えることも、二人の求める理想の融和を叶えてあげたい界面活性剤からすれば、泡を吹いて倒れるほどの重罪であった。


界面活性剤はただ見守ることしかできなかった。陰ながら、二人を応援することくらいしか、彼の信念に背かない範囲で、彼にできることはなかった。




そんな泡立ちの悪い界面活性剤をしり目に、行動を起こしたやつがいた。






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