第3話 疑念


篠田に届いていたのは小さなノートブックだった。日記というには日付がまちまちで、記者のメモ帳と言ったところだろうか。中身はさておき、パラパラとページを捲りながら篠田は何故これが自分の元へ送られてきたのかと疑問に思った。どのページも篠田には縁もゆかりもない国での体験記が載っているだけで、メッセージ性も特に感じられない。


しかしながら、明晰な篠田の頭にはある人物がよぎっていた。




町田まちだ哲弘てつひろ”は篠田や真帆と同じ高校の同級生であり、高校卒業後地元の新聞社Aに入社した。元々文を書くことが好きだった町田は、より真実に迫った記事を書くために世界中を飛び回った。語学に秀でているわけではなかったが、持ち前のコミュニケーション能力で現地の人間とすぐに良好な関係性を築くことができていた。まさに天職と言ったところだろうか。


篠田と町田は高校の時から仲が良く、今でも1年に2,3回は飲みに行く関係性だ。町田が篠田に奇妙な話を持ちかけたのは2月頃だった。

「篠田、俺は今ヤバいトピックに片足突っ込んでるのよ。」

「おいおい、お前二重スパイやってるとかじゃあるまいな。」

「はは、俺ができるようなタマか?違うよ、宗教関連だ。」

「宗教…?」

「ああ。アメリカに確かに存在する宗教なんだが…。」

町田はグッと顔を近づけて神妙な面持ちで続けた。

「どうやら相当深い闇を秘めてるらしい。その教えのもとでは殺人が正当化されてるんだ。」

「過激派イスラム組織みたいな…テロを起こすとかそんな感じか?」

「違う。そんな表立ったものじゃない。しかしながら遥か昔から、水面下に潜みながら確かに存在した組織なんだ…。その名前は……。」


ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ。


町田のスマホが無機質な機械音を鳴らした。ハッとしたような顔で町田はスマホを手に取り、一万円札を財布から取り出してテーブルに置いた。

「すまん、少し酒が回り過ぎたみたいだ。今日は帰るよ、急で申し訳ないね。そ、それじゃ。」



篠田は町田の表情を忘れることはなかった。まるで天敵に見つかった被食者のような、その怯えた目を。


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