化け物の扱い方⑨




奇跡というなら、負の感情じゃない方がいいだろう?

引き金に力をこめる。


くぐもった銃声。脳天をぶち抜いてやった。普通の異常者でも、これで死ぬ。


ノイズがの眼球が、ぎゅるん、と白目を剥いた。ゆっくりと仰け反るようにして、後ろに倒れ込む。それを暫く眺めていると、ゴボリ、と額に空いた穴から血が吹きこぼれた。


「……」


スカルは眉間に皺を寄せ、その様子を見守った。穴からゆっくりと、銃弾が押し出され、傷口が閉じる。ノイズの瞼は閉じないまま、黒目を隠したまま。頭の中では、脳みその修復をしているのかもしれない。

死んでない。

ならば、と今度は首に手をかける。握力には自信があった。鍛えてないノイズの細い首など、一捻りだと思った。きつく締め上げてやると、ノイズは苦しげな汚い喘ぎ声を漏らした。徐々に力を込めて行く。ゴキ、と首の骨が折れる音と感覚。首を絞める反対の手で鼻に手を当てると、ノイズの呼吸は確かに止まっていた。そのまま酸素を取り込む器官を塞いでやる。


普通なら、これで死なない方が可笑しい。なのに、ノイズの体は冷たくなるどころか、だんだんと熱を帯びてきた。


「……?」


 外傷はなくても、生命を維持するノイズの細胞は今現在片端から死に、それと同時に、再生している。普通の人間が風邪を引いたら熱を持つのと一緒なのだ。余りの熱さに、手に汗を握る。どんどん上がっていき、それはとうとう人が発熱出来る温度を超えていた。


「チッ」


バグは、舌打ちをして手を離した。とてもじゃないが、触れていられない。


様子を見ているしかなかった。ノイズの瞳が戻ってくる。意識が、浮上して来たのだ。


「やっぱ、だめ、だよなぁ」


あっさりと戻った意識に、掠れた声。得も言われぬ絶望に、その瞳から一滴だけ涙が零れる。


「アイルーは、泣かなかった。零れそうだったけど」

「あいつは強いからな。女隊員は、全員あいつに憧れる」


 けれど、そんな彼女の弱音を、ノイズは聞いたのだろう。防衛隊の誰かでは絶対に聞けなかったその本音を。それが羨ましいなんて、どうかしている。


「……ロゼに別れを告げられた時、エミリアが死んだ時は、一滴も出なかったんだよ」 

「……そんなん知るかよ。だからどうした」


 情けない表情を手のひらで覆い隠してやりながら、スカルは言った。涙が出ないからどうした。今のお前はどう見ても泣いている。


「お前みたいな雑魚を捕まえて、簀巻きにするんじゃビビってるみたいでだせぇから、今回は見逃してやるよ」

「なんだそれ」


震える声だが、確かに。

スカルの手のひらは、濡れはしなかった。

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