化け物の扱い方⑦
ブラッドがスカルを呼び出し、隊長室に入ってから大きくため息を吐いた。
「あーくそ、あいつ等隊士をなんだと思ってやがる」
「……なんか言われたんすか?」
あまり部下に態度を露わにしないブラッドが、こうも荒れるのは珍しい。まぁこうやって自身をさらけ出すのは、スカルを入れてもそんなに人数はいない筈だ。
「ノイズのお陰で犠牲者ゼロだぞ!あいつがいなきゃアイルーは死んでた」
「……一人の犠牲があったとしても、十分な成果だって?」
アイルーの腕を考えれば、バグと一騎討ちになった時、恐らく相打ちにはなっただろう。
「異常者相手にここまで犠牲なく対応できたのは、防衛隊の訓練の賜物だとはお褒め頂いたよ」
「まぁ、今までは殉職二桁超えるか超えないかくらいでしたからね。クレイの時は…、三十四人でした」
「あいつは規格外だろ。でも、犠牲が無かった事は、なかった」
「そうですね」
犠牲者ゼロ。といっても、対応前に殺された一般人の事を考えると、諸手を上げて喜べる事もないのだが。
「はぁ、アイルーになんて言ってやればいいんだか…」
「……いや、そこは普通に生きてて良かった、で良いんじゃないですか」
それは、ブラッドも弟のスカーに言われた言葉だった。だからこそ、ブラッドは彼女の気持ちが分かる。あの時の何とも言えない顔を見ると、何を言っても安い言葉にしかならない気がするのだ。
「そうなんだがなあ」
「それにさっきは、あいつがいたからなんも言えなかったんでしょ」
スカルのフォローに渋い顔をしてしまう。あいつとはもちろん、ノイズの事だ。
「ノイズ万歳みたい流れにする訳にもいかないですからね」
ノイズは、まだ要観察対象。その功績を讃えるには危うい存在。
「なんてったって上がめんどくさい…」
「そうですね」
それが無ければ、手放しであの二人を褒めてやれたのに。まあ心配なのはノイズよりも繊細な神経をしているアイルーだけなのだが。
「……さて、スカル。本題だが、お前の先入観は打ち砕かれたか?」
愚痴が終え、切り替えて本題に入る。スカルの今回の仕事は、ノイズについての報告だ。
「……奴が、思ったよりもなんも考えてない事が分かりました」
「そうだろう、そうだろう」
ブラッドは満足気に頷いた。
「それに、不老不死の体は利用できる。あいつが損得考えているかは謎ですが、アイルーの前に迷わず割り込んだ。害があるとは判断できませんでした」
「お前ならそう言ってくれると思っていた」
「……言いたくなかったですがね」
憎々しげにスカルは吐き捨てた。
「悪いな」
「いえ、了承したのは俺なんで」
しかし、どこかすっきりとした笑顔で、スカルが言う。
この潔さが、気に入っていたのだけれど。
「もう少し監視していても良いんだぞ?」
というのも、この報告後、スカルは別の部署に異動することになっていた。ノイズが害有と判断できれば、居残れた。バグの監視役は、条件付きだったのである。
「報告を先延ばしにすれば……上官殿が煩いだろうが」
「……どちらにせよ、俺は、俺が見たままを報告します」
上は一刻も早くあの化け物をどうにかしたい筈。『万が一化け物にほだされるような体たらく』を見せれば即前線を外すと言われているにも関わらず、スカルがこんなにも早く『ノイズは無害』とすれば、上も暫く何も言ってこなくなるだろう。
「何が何でも、あいつを有罪にしてやるつもりだったのに」
「そういうお前だから、頼んだんだ」
実際に、ノイズと関わらないと、その人間性は分からない。
「……好きな女のナイトを奪われたんじゃ、ただの嫉妬にしかならねぇからな」
「またそう言うことを」
スカルは短気だが、人を見る目は間違いなかった。
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