化け物の扱い方③
「遠距離戦が良いか」
異常者、バグ・ロードが身を潜めているという区域は、廃墟の町だった。
『囮を使って背後から捉えますか?』
「そうだな」
囲って狙い撃ちするにはもってこいの場所。狙撃が得意な隊員が集まる、アイルー率いる二班が、既に各地の廃屋に散らばっていた。囮を使い、確実に捉えられる位置に誘導し、頭と胸を狙う。バクは体格が良いので、急所から少しでも外れれば無力化は出来ないだろう。
『バグは町に向かっているようです。C地点からB地点。あれ、持ってるのマシンガンですかね…』
「奴は武器を何処から仕入れているんだ…?まあいい。囮班は奴の視線と銃器の向きを意識するように」
『了解です』
「あと奴は動きが遅い。クレイに比べりゃ亀だ。焦るな」
『はい』
『よし行け』
もしもの時の動きやすさ重視で、防弾チョッキを着ただけの軽装備の隊員がバグの周りをうろつく。その気配を察知してか、バグが辺りを見回した。ベロリ、と獲物を見つけたように舌なめずりをして、バグは気配のする方へ足を向ける。
さすがに嗅覚が鋭い。
『バグが進路変更、B地点からD地点』
「狙撃地点は?」
『C地点が望ましいです』
「行けるか?」
『行きます』
アイルーの頼もしい返事。
『……少し前に出て注意を』
自分の班員にそう告げると、隊員の一人が、建物の陰から少しだけ体を出した。その影が、バグの視界に入る。重たい銃器が持ち上げられた。
「気づいた!」
良く通る声が班員の体を突き動かす。消えた獲物を、バグは気味が悪い程静かに追いかけた。
『B地点通過。おい、その辺の奴隠れないと見つかるぞ!』
『やば…』
『馬鹿、そっちじゃ…』
隊員達が焦ったように声をかけあう。瞬間、バグの銃器が火を噴いた。狙われた隊員は転がりながら脇道に逃げこむ。それを追いかけようとしたバグの足もとに、銃弾が霞めた。狙撃班の威嚇射撃だ。
「……チョロチョロしやがって…。鼠どもがぁ!」
バグの叫び声が、人気のない建物の壁に反響して響く。同時に、手当たり次第に四方に銃をぶっ放した。
『今顔を出したら死ぬぞ!』
その銃口は、バグの様子を見て指示を出す隊員のいる、建物上の方にも向けられた。
『ばっ!』
「伏せ!囮班は跳弾に気を付けろ!」
バリンバリンバリン!と、ガラス窓がぶち破られる。通信機の向こうから、隊員の悲鳴と鏡や物が壊れる音が激しい雑音となって鼓膜を襲った。
落ち着いた頃に外の様子を伺うと、バグの巨体が消えていた。
『やばい。目標、見失った』
『こちらにも見当たりません』
「どこかの建物に入ったか…」
「狙撃班、指示班は気を付けろ…。後ろから蜂の巣にされるぞ」
バグがたまたま逃げ込んだ先に隊員が配置されている可能性は大いにある。そうなれば、そいつの命は無いも同然。一対一の戦闘では、異常者に勝てる訳がない。
最初からノイズを出して置けば良かっただろうか。なんて、弱気が顔を出した。
その頃、ブラッドが頭に思い浮かべた人物の監視役のスカルが悪態を吐いていた。ノイズは気配を消すのが上手い。その所為と言うには言い訳が過ぎるが、標的がいなくなったという緊急事態に、余計な心配をかけまいとその報告できずに、スカルは持ち場を動けずにいる。
「あの野郎覚えてろ……。ぜってぇ牢屋にぶち込んでやる……」
そんな恨み言を聞いてくれる人間は居ない。
今にも、この先にも。
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