化け物の扱い方②



この短い逢瀬でも、こうなる予想はついていた。だけどブラッドは、こうなると分かっていてノイズの監視をスカルにしたのだ。上からの圧力がかかっているので、まるっきりブラッドの一存というわけではないのだが。


勢いよく払われたノイズの視線が、払われた手の方に向いている。


「化け物とよろしくするつもりなんかねぇよ」

「…へぇ?」


短気なスカルを挑発するように、ノイズが意味ありげに笑う。これでも、良く考えて監視役をスカルにしたのだが。


「人選間違ったかな…」


 思った以上に、この二人の相性が悪すぎる。


「どう見ても失敗ですね」


冷静な声が部屋に響いて、ブラッドは驚いた。


「ドアが開いていましたよ。気を付けてください」


ノックもせずに、彼女が隊長室を開ける事はない。ブラッドは決まり悪く謝った。これで機密事項のような大事な話でもしようものなら、笑って済ませられる程の落ち度では済まない。


「異常者警戒地区より、捜査中の隊員から通報です。バグ・ロードが現れたと」


部下に叱られて示しがつかないブラッドの事を気にする風でもなく、アイルーは要件を素早く伝える。

異常者が現れた。とあらば、防衛隊の仕事。


「分かった。捜査隊員はその場で待機。すぐに向かう」

「了解です」


アイルーが頭を下げて部屋を出る。その姿を食い入るようにスカルが見ていた。


バグ・ロードは、銃器を複数所持している異常者である。ただ獲物に向かって乱射するだけで命中率も無ければ頭もない。計画性がないからこそやりにくい相手ではあるが、クレイが捕まえられたのだから他の異常者など赤子同前。現在の隊員の士気は悪くない。


「ノイズ!」

「はい?」

「初仕事だ」


それに、細かいことを抜きにしても、不老不死の存在は、正直に言って心強い。


「……悪いが、お前には接近戦時、最前線に立ってもらうことになると思う」


彼だって痛覚はある。苦痛を感じる。不老不死だからそれを受け入れさせることへの罪悪感はある。けれど、上に言われたからではなく、防衛隊の隊長として、隊員の犠牲を少しでも減らすには。


「ああ、良いよ。……それが正しい判断さ。隊長」

「悪いな」


 彼の事をこういう風にしか扱えない自分に嫌気が差す。けれどノイズは、そんなブラッドに柔らかく笑いかける。


「あんたがああ言ってくれた事。実現性があるとは思わないけど、嬉しかったよ」


 その言い方は、まるで兄が弟に。親が子供に。先輩が後輩に、言い聞かせるような色を含んでいた。ブラッドの持っている負い目を払拭するように。


「お前らの事、結構好きなんだ。俺」


距離を取る、なんてとっくに手遅れ。その、人好きのする笑顔にやるせなさを感じてしまう。この心優しさに付け込んでいる自分達こそ、本当の化け物なのかもしれないと。


「……てめぇの化けの皮を剥いで豚箱にぶち込んでやるよ」


突然、スカルが言い放った言葉に、ノイズとブラッドは瞠目する。


「所詮てめぇは化け物だ。そうやって隊長を唆してどうするつもりだ?」

「スカル」

「おいおい、傷ついた振りなんかすんじゃねぇよ?俺はお前なんか信用しない。異常者は全員殺すべきだと俺は思ってんだ」


スカルの意見は、まるまるそっくり防衛隊の上層部と同じ意見だ。だから彼なのだ。ブラッドのとんでもない意見を通すための条件に、彼は必要不可欠だった。


「まあ、ノイズは死なないがな」

「だからその辺の異常者と同じように縛り付けて身動きできない様にしてりゃあ良かったんですよ」


スカルのこの過激な物言いは有難くもあるが、今の現状ではトラブルが起きないかハラハラする。


「……そんな敵意剥きだしで良いの?俺逃げるかもよ」

「逃げたらそこで、てめぇは敵だ。お前の身体能力はその辺の防衛隊より低い。余裕でとっ捕まえて牢屋にぶち込める」

「ふぅん」


これは、一種の賭けであった。下手すれば、本当にノイズは他の異常者と同じように研究所に逆戻りして縛り付けられる。けれど、上手くすれば、ノイズの立ち位置はもっと保証される。


 ブラッドがいなくなっても。


これは決して、保守的な考えではない。ブラッドが死んだ後でも『約束を果たすため』だ。


 頼むぞ、スカル。


 こう見えて、彼は義理堅い人間だ。


 彼の心が動けば、これ以上の証明はない。


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