12杯 知的な装い

 夕方というにはまだ早い時間、町のファーストフードで胸を肌蹴させた女子がカフェオレを前にしている。

 頬杖をついてつまらなさそうに冷めていくカフェオレを見ていた女子、サクラは溜息を付いた。

 優美は友達と買い物に行くと言っていた。あの小さい娘とは仲はいいが買い物の趣味は合わない。

 真一は怪我で療養中。しかし実際には魁の装備を手伝うと言って高台の屋敷に入り浸っている。

 サクラもその新装備とやらを見に行こうと思うのだが、流石に魁と二人で帰るのは満弦に悪い気がしたのだ。

 早く着いて真一が来ていなくても気まずいので、こうして時間を潰している。

「あら、あなたは」

 大学生くらいの女性が声を掛けてきた。

「壬生くんの……、お姉さん?」

 楓よ、と言って対面の席に座る。

「学校帰り?」

「ええ、まあ」

 魁のクラスメートなのよね? と世間話に始まり、いつもの仲間が今日はそれぞれの行動を取っている話などをする。

「彼氏は見つかったの?」

 思ったより明るい調子なので、安心して少々立ち入った事を聞いたようだ。だがサクラは黙って首を振る。

「警察沙汰になってないから無事だと思うんですけど、家に行っても誰も出なくて。ちょっとショックな事があったから、無理ないと思うんですけど。今度家の人が居る時に行こうと思います」

 そっか、と当たり障りなく答える。

「きっと無事だよ。どんな人? ウチの魁とは大違いなんでしょうね」

「そうですね。でも壬生くんの方がカッコイイですよ。真面目だし」

「そうそう。あいつ辛気臭いのよねー。分かる分かる、私ももっと軽いノリの人が合うもん。彼氏も同級生なの?」

「ええ。同じクラスで、ちょっと無骨だけど頼りになるって言うか……、いや頼りになるって言うなら壬生くんの方が……、あれ? 何言ってんだろ?」

 苦笑いする楓に、サクラが照れたような笑みをこぼす。

 ひとしきり互いの男の趣味などを講じ、今日は魁の家に真一がお邪魔しているはずという事で、共に高台の屋敷へ向かった。



「お邪魔します……」

 サクラは大きな玄関の敷居を跨ぐ。

 まだ慣れない。一人だと尚更だ。

 真一の奴がまだ来てなかったらどうしよう、と若干ハラハラしていたが、玄関に真一の靴を見つけ安堵する。

 たがその溜め息には僅かに失望の色が混じっていた。


「あ、サクラさん。僕も丁度来た所だったんです」

 魁の部屋に入るとやはり真一がいた。

 あ、そう……と興味なさそうに鞄を置き、床に座る。

 真一は魁の鎧に何やら取り付けている。

「でもこの鎧、鉄じゃないんだね」

「ファイバー製です。軽さと動き易さを重視しています」

 形は古くても、最新技術が盛り込まれているようだ。

「ファイバーって、……食物繊維?」

「はは、それも繊維ですけどね。防弾チョッキにも使われている素材ですよ」

「防御力はそれ程高くありません。まともに受けるとこの通りですよ」

 と言って魁は割れた手甲を見せる。

 自分を庇った時のだ、とサクラは少し申し訳ない気持ちになる。

「出来ました。着けてみてください」

 魁は鎧を着ける。

「何て言う鎧なんですかね?」

「百式走甲、と呼ばれてました。走る、と書いて走甲です。走れる鎧って事でしょう」

「へえ、代々受け継がれてきたんでしょうねぇ」

「父が作ったと言ってました」

 魁は鎧を着け終わり、具合を確かめるように動かす。

「どうですか?」

「違和感は、さほどありませんね」

「でも、そんなとこに付けて大丈夫なの?」

 サクラは魁の左肩を見て言う。

 鎧の左肩、というより胸に携帯電話が取り付けられている。

「大丈夫ですよ。米軍のアーミー服だって、ここにコンバットナイフが付いてるでしょう?」

 知らないわよそんな事、と興味なさそうに壁にもたれる。

「着信の時、表面を叩けばそのまま通話出来ます。この位置なら通話も問題なく出来るでしょう」

 これは便利です、と操作を試す。

「そして、これは戦いの様子を記録できるようになってます」

 真一が胸を張り、自慢げに言う。

「通話の時以外はこのカメラが一部始終撮影します。手振れ防止機能も強いのでかなり動き回っても大丈夫、広角レンズで範囲も広く、画像が止まっている時は録画も停止してくれます」

 盗撮じゃん……とサクラが文句を言うように呟く。

「なるほど。もし私が倒れても、次の人が記録を見て戦いに活かしてくれるわけですね」

「……いや、そういうつもりで付けた訳じゃないんだけど」

「どうせ自分が戦いに行けないから、後で見たいってんでしょ」

「まあ、そんなとこです。そこで壬生くんにお願いがあるんですが……、技を使った後に、技の名前を言ってほしいんです」

 技の名ですか? と眉を寄せる魁に、

「記録用ですよ。どんな敵にどんな技が有効だったのか、とか後で参考になるでしょう?」

「確かに、それは一理ありますね」

「技名知りたいだけでしょうがあんたは」

「えへへ、それとも……門外不出だからダメとか?」

「いえ、別にそんな事は。まあ折角作ってくれたことですし、やってみますよ」

 真一は表情を明るくする。

 軽快にドアをノックする音が響くと、返事を待たずにドアが開く。

「おっまたせー」

 軽いノリで優美が入って来た。楓が部屋に通したらしい。

 買い物帰りのようで、紙袋を持っている。

「まーた、あんたは。くだらないキャラクター商品ばっか買ってきて……」

「くだらなくないもん。これ今人気あるんだよ?」

 小学生にでしょ……、と呟きサクラは寝転がる。

「コスモガール プリズン・キュアハートですね。僕の妹も大好きなんですよ」

「アンタはコイツの妹と同列か!」

 だから優美とは買い物に行けないのよ、とふてくされる。

 真一と優美が魔法少女の話で盛り上がる中、魁はどうしたらいいのか分からず固まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る