忍ぶ侍と潜む獣
8杯 慈愛
授業が終わって帰り支度をする為、教科書やノートを整頓しながら鞄に仕舞い、魁は後方の席を見やる。
昨日、夜遊びをしていた連中はいない。
無理もないと思う。かなりショックを受けようだし、一人は結構な大怪我だ。数日は休むかもしれない。
これに懲りて夜は家で大人しくしているだろう、と鞄を持って校舎を出る。
だが校門前には昨日の面々、サクラ、真一、優美の三人が魁を待っていた。
真一は怪我をしたばかりなので松葉杖をついている。
魁を見つけ、皆手を振る。
「何かご用でしょうか。お礼なら、昨日聞きましたが」
「考えたんだけどさー、あたし達も壬生くんの仲間に入れてくんないかなーって」
「僕達だけで狩りは無理そうだと分かったんで、せめて手伝いでもしようって事になったんですよ」
魁は言っている意味が分からない、という風に首を傾げる。
「それに、あの後警察に事情を説明したのはあたし達なんだから、その分は返してくれてもいいんじゃない?」
腰に手を当てて高圧的に言うが、そもそもの原因が自分達である事を思い出したのか、サクラは少し照れ隠しのように俯く。
困ったような顔になった魁に、
「ほら、やっぱり無理だって言ったじゃん。わたし達に手伝える事なんてあるわけないよー」
優美が後ろから二人の服を引っ張って言う。
「いえ、そんな事はありません。実は手伝って欲しい事があります」
「ホント? なになに?」
目を輝かせる二人に、鞄から掌大の機械を取り出す。
「これの使い方を教えてくれませんか」
◇
クラスメートの三人を伴って魁は家路に着く。
取り合えず、家で色々と話を聞きたいと言うので招く事になったのだが、魁は今までに友達を家に連れてきた事はなかった。
自分とは違い世俗的な姉の楓でさえ、家に友達を招いた事はない。
どうしたらいいのか分からなかったが、かなり強引に迫られたので断りきれなかった。
道中、昨日は満弦も一緒だったが途中で逃げた事などを聞いた。
「それで黒川くん、家にはいるんですか?」
「それが連絡つかないのよー。家にも行ってみたんだけど留守なのか、居留守なのか」
「騒ぎになっていないから、無事なんだと思いますよ。それに気持ちも分かります……」
「だいじょーぶだいじょーぶ、いつもみたいにすぐケロッとして出てくるわよ」
優美が軽い調子で言う。
「それで壬生くんのアレ、稼業って言ってたけど、家はやっぱり道場かなんか?」
「はい」
「やっぱりそうなんだ。カブラコリュウ……だっけ」
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