忍ぶ侍と潜む獣

8杯 慈愛

 授業が終わって帰り支度をする為、教科書やノートを整頓しながら鞄に仕舞い、魁は後方の席を見やる。

 昨日、夜遊びをしていた連中はいない。

 無理もないと思う。かなりショックを受けようだし、一人は結構な大怪我だ。数日は休むかもしれない。

 これに懲りて夜は家で大人しくしているだろう、と鞄を持って校舎を出る。

 だが校門前には昨日の面々、サクラ、真一、優美の三人が魁を待っていた。

 真一は怪我をしたばかりなので松葉杖をついている。

 魁を見つけ、皆手を振る。

「何かご用でしょうか。お礼なら、昨日聞きましたが」

「考えたんだけどさー、あたし達も壬生くんの仲間に入れてくんないかなーって」

「僕達だけで狩りは無理そうだと分かったんで、せめて手伝いでもしようって事になったんですよ」

 魁は言っている意味が分からない、という風に首を傾げる。

「それに、あの後警察に事情を説明したのはあたし達なんだから、その分は返してくれてもいいんじゃない?」

 腰に手を当てて高圧的に言うが、そもそもの原因が自分達である事を思い出したのか、サクラは少し照れ隠しのように俯く。

 困ったような顔になった魁に、

「ほら、やっぱり無理だって言ったじゃん。わたし達に手伝える事なんてあるわけないよー」

 優美が後ろから二人の服を引っ張って言う。

「いえ、そんな事はありません。実は手伝って欲しい事があります」

「ホント? なになに?」

 目を輝かせる二人に、鞄から掌大の機械を取り出す。

「これの使い方を教えてくれませんか」



 クラスメートの三人を伴って魁は家路に着く。

 取り合えず、家で色々と話を聞きたいと言うので招く事になったのだが、魁は今までに友達を家に連れてきた事はなかった。

 自分とは違い世俗的な姉の楓でさえ、家に友達を招いた事はない。

 どうしたらいいのか分からなかったが、かなり強引に迫られたので断りきれなかった。

 道中、昨日は満弦も一緒だったが途中で逃げた事などを聞いた。

「それで黒川くん、家にはいるんですか?」

「それが連絡つかないのよー。家にも行ってみたんだけど留守なのか、居留守なのか」

「騒ぎになっていないから、無事なんだと思いますよ。それに気持ちも分かります……」

「だいじょーぶだいじょーぶ、いつもみたいにすぐケロッとして出てくるわよ」

 優美が軽い調子で言う。

「それで壬生くんのアレ、稼業って言ってたけど、家はやっぱり道場かなんか?」

「はい」

「やっぱりそうなんだ。カブラコリュウ……だっけ」

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