6杯 美しい変化
畳敷きの広い部屋の真ん中で、壬生 魁は鎧装束に身を包み、正座していた。
その目の前には掌大の、薄い長方形の機械が置いてある。
いわゆる携帯電話というやつだ。
しかし魁はこの手の機械を使用した経験が無い。欲しいと思った事も無ければ、必要と感じた事も無かったのだが、この度母から変異種を狩りに出るのならば、緊急用に携帯しておくようにと渡されたのだ。
戦闘時の緊急連絡用という事は装備の一環である。武器や防具と同じだ。時として自分の命を救ってくれる事になるかもしれない。
これから共に戦いに出る戦友として儀礼の場を設けたのだが、これまでの武器や防具と勝手が違うようだ。この機械を感覚で捉える事が出来ない。
魁は今までに無い試練となる事を予感して、目を閉じて精神を統一し、携帯電話と心での会話を試みた。
すぱぁぁん!
と軽い音が広い部屋に
「気持ち悪いのよあんたは」
魁は、丸めた新聞紙を手にした若い女性を振り返る。
「……姉上」
ぱぁん! と再度新聞紙が魁の頭を打つ。
「辛気臭いのよ。その呼び方止めてって言ってるでしょ!」
ソバージュをかけた髪に、家屋の雰囲気に似つかわしくない今時の服装をした魁の姉、壬生 楓は魁の顔に新聞紙を突きつける。
「携帯持つのにいちいち儀式すんな」
「しかし、本当に困っているのです。姉上は携帯電話を持っているのですよね? 教えて欲しいのですが」
「どうせ使い方分かんないんでしょ」
「それもありますが、携帯電話と言うからには、携帯するものなんですよね?」
「当たり前でしょ」
「どこに携帯しておけばよいものなんですか?」
「そんなもん、ポケットに……」
と言いながら魁の格好を見回すが、鎧を着た魁の服装にはおおよそ収納スペースと言える箇所が無い。
暫く魁の体を見回しながら考えた後、
「知るか! 自分で考えろ!」
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