三十話 戦いはステータスで決まらない
ロナウドを追って現れた三人の刺客。
いずれも手練れのようで隙がない。
【ステータス】
名前:※※※
年齢:※
性別:※
種族:※※※※
力:32709
防:4888
速:26666
魔:10988
耐性:10964
ジョブ:※※※※
スキル:※※※※
称号:―
リーダーの男のステータスを見るが、なぜか数値以外はまともに見れない。
なんらかの隠蔽を行っていると考えてよさそうだ。
それにしても3万か。状況はかなり厳しい。
こっちはやっと2万台にのったところなのに。
唯一の救いは物防が低いこと。一撃さえ当てればこちらの勝利だ。
「義彦殿、奴らはどんな手段でも使ってくる相手でござる!」
ロナウドの言葉にハッとする。
そうだ、まともに戦えば逆に相手の思うつぼだ。
向こうはそれを想定して準備をしているはず。
だったらやることは敵の想像を超える攻撃を仕掛けること。
ステータスですら負けている俺達に勝機があるとすればそこだ。
「待ってくれ。こっちは戦闘する意思はないんだ」
「なんだと?」
男はナイフを鞘に収めて両手を挙げる。
他の二人も武器を収めて無防備となった。
「我々はそこにいるロナウドを渡してくれさえすればいい。そうすれば君達に危害は加えないでおこう。もし引き換えに金が欲しいと言うのなら快く飲むつもりだ」
「仲間を売れと言っているのか」
「仲間? 冗談だろう? その男は依頼された相手は必ず殺す生粋の殺し屋。依頼達成率100%の我がギルドが誇る最高の暗殺者だぞ。ちんけな魔獣相手に金を稼いでる君達とは、そもそも住んでいる世界が違う。そんな彼を仲間だと、笑わせてくれる」
「本当にそうか? 俺から見ればお前らよりロナウドの方が何倍もまともだぞ」
「……交渉は決裂のようだな」
どうやら彼の逆鱗に触れてしまったようだ。
暗殺者って言うわりにはどうでもいいところにこだわってるんだな。
いや、暗殺者だからこそなのかも。
再び武器を抜いた敵に俺達は攻撃姿勢となる。
巡らせるのはここからの展開だ。
一人一殺が目標だ。三対三での乱戦は危険すぎる。
ここは奴らを引き離す戦法しかない。
「エレイン、ロナウドの守りは任せたぞ」
「はい」
戦いは前触れなく始まった。
瞬発的にそれぞれがそれぞれの敵と武器を交える。
俺の相手はリーダーの男だ。
リリアは早々に森の中へ入って行き戦闘を繰り広げていた。
俺も戦うなら森だろう。ここでは障害物がなさすぎて戦いづらい。
「本当に森に入っていいのか? 我々はアサシンだぞ?」
「だからなんだ。すぐにその長い鼻をへし折ってやんよ」
森に入った俺の後ろを男が追いかけてくる。
山は薄暗く空を木々が隠していた。
「ふっ!」
「っつ!?」
後方から投げられたナイフを、俺は地面を転がることで木の陰に隠れる。
やっぱりな。飛び道具を持っていると思ったよ。
さすがに忍者ほどの暗器使いではないとしても、隠し武器くらいはあるだろうからな。
「出てこい。この俺からは逃げられないぞ」
「へぇ、ずいぶんと自信があるんだな」
会話をしつつ俺は懐からあるものを取り出す。
隠し武器ならこっちも負けていないぜ。なんてたって錬金術師だからな。
「コレでも食らえ!」
空中に5個の粘着玉を放り投げた。
「さては爆発物か! 俺には効かん!」
奴はナイフを投げて易々と全てを破裂させる。
もちろん計算内だ。飛び散った液体がびちゃびちゃと地上に落下、男の身体にまとわりついた。
「なんだこれは!? 粘ついて動けない!」
「早すぎる判断だったな。爆発するようなものを投げるとは限らないだろ?」
「ちっ」
元々服に切れ目が入っていたのか、男はパンツ一枚になって粘着液から脱する。
そんな手段があるのかと敵ながらに密かに感心してしまった。
「もう油断はしない。この俺はギルドのナンバー6だぞ」
「6番目って中途半端だな」
「黙れ! よくも気にしていることを!」
やべっ、また怒らせたよ。
でもこの程度で6番目って暗殺ギルドって実はたいしたことないのか?
ここ最近、とんでもないステータスばかり見てたからちょっと麻痺ぎみかも。
「ところで先ほどからガチガチ五月蠅いそれはなんだ?」
「……うん。気にしないでくれ」
鎧が腹減りでイライラして喧しい。
まだ我慢の限界を迎えるまで時間はあるが、できるだけ早くあいつを仕留めないと身動きとれなくなってしまう。
やっぱ防具を作りかえた方がいいのかもなぁ。
キィン。
敵のナイフと俺の剣がぶつかり火花が散った。
得物が短い分、攻撃範囲は向こうの方が不利。
だが素早さと取り回しの良さでカバーするどころか有利な位置に立っていた。
ナイフよりも剣の方が強いなんて固定観念は早々に捨てた方がいいな。
ステータスの開きから行動後に反応することは難しい。
相手の予備動作などから動きを予測して対応するしか方法はなかった。
「意外にやるな。褒めてやる」
「マジものの暗殺者にそう言ってもらえるのは結構嬉しいよ」
「ふっ、だがまだまだ甘い」
「――しまっ!?」
上半身ばかりに目がいって下半身から注意を向けていなかった。
奴はそこを見事に突いて、素早く足を引っかけて俺を地面に転がす。
ナイフが俺の首筋にそえられた。
「相手を騙し、虚を突き、有利を崩す、これこそが戦いの基本。良い勉強になっただろ。あの世で役立てるといい」
「……なるほどね」
額から冷や汗が流れた。
やっぱ本職は強い。
戦いの中で起きる変化をよく捉えている。
「な、なぁ、あんた達の仲間になることはできないか?」
「何を今さら。それに貴様は暗殺者向きではない」
「じゃあどんな奴なら向いているんだ」
「……時間を稼ごうとしても無駄だ」
やっぱお見通しか。けど、間に合ったよ。
なんとか手元にある剣の柄の包帯を解くことができた。
これで剣に魔力が浸透し、例のアレを放つことができる。
「あー! 俺の剣が!!」
「剣がどうし――あぐっ!?」
次の瞬間、剣から眩い閃光が放たれた。
スタンブレイドの固有能力スタンフラッシュだ。
まぬけな罠のはめ方だが、この際かかればどうでもいい。
「目が! 目がぁぁああ!!」
視覚が麻痺したところで、俺は奴の右腕を掴んで鎧の口に突っ込む。
ガブリッ。男の右腕が肘ほどから消えてなくなった。
「ひぎゃぁぁああああっ!? 腕が!? 俺の腕が!!」
「油断したな!」
男を蹴り飛ばし素早く立ち上がる。
そして、無拍子を発動させた。
ぼとん。
切り落とした頭部が地面に落ちる。
不思議と心は落ち着いていた。
初めての殺しだ。普通なら取り乱している。
けど、俺にとっては魔獣も人も大して変わらないようだった。
もしかすると俺には人格者と呼ばれる為のセンスもないのかもな。
「そうだ、二人を助けないと!」
俺は急いで来た道を戻る。
河原ではエレインがちょうどとどめを刺していた。
長く伸びた細剣が敵の胸を貫いている。
一瞬にして刀身が元の長さに戻ると、エレインは華麗に剣を鞘に収めた。
彼女の身体には傷はなく、完全勝利を収めていることが見て取れる。
ですよねぇ。考えてみればエレインの武器って反則だし。
むしろ心配する方が失礼だったな。
ドッボンッ。
森から川になにかが猛スピードで突っ込んだ。
駆け寄ってみると、それは体中の骨が折られた男の死体だった。
「これだよこれ♡ もっともっと沢山しようぜ♡」
森から出てきたのは目をハートマークにしたリリアだった。
顔は紅潮しており極度に興奮している。
身体には無数の傷ができていて血が垂れていた。
コイツと戦う奴は別の意味で恐怖するんだろうな……。
「それでロナウドは――あれ?」
彼の姿はそこにはいなかった。
ロープは解かれ地面に落ちている。
がさっ。
森から出てきたロナウドは左手で男を引きずっている。
俺達の前に放り投げると、血の付いた刀を振って背中の鞘に収めた。
「拙者は4人いると申したでござる」
「そういえばそうだったな。こいつは?」
「隠れて戦いを観察していた者でござるよ。結果を組織に報告をする監視者でござる。こやつを逃していたらお三方も標的にされるところでござった」
なるほど、そう言う役割の奴もいるんだな。
俺はてっきり戦闘員だけなのかと思っていた。
やっぱ組織に所属していただけに、手の内は分かっているんだな。
「でもどうやって縛りから抜けたんだ」
「拙者は忍びでござる。いかなる状況からも脱する技術を会得しているでござるよ」
「おおおおっ! じゃあロナウドは縄抜けしたのか!?」
「いかにも」
カ、カッコイイ!! 縄抜けスゲー!
俺もう剣士なんて目指さずに忍者になろうかな!
「稲穂国へ行けば忍者になれるのか!?」
「すさまじい食いつきでござる。落ち着くでござるよ」
「なれるのか!? なれないのか!?」
「う、うむ、素質があれば……」
ぬひょほほ! 忍びになれるのか!
よし、俺は必ず稲穂国へ行くぞ!
ずしん。
重くなった鎧に耐えきれず俺は倒れる。
突然のことで驚いたロナウドは慌てて駆け寄った。
「まさか敵に深手を負わされたのでござるか!?」
「違う違う。鎧のせいだよ」
「義彦! ベアラット持ってきたぜ!」
熊のような見た目のネズミをリリアが持ち上げて走る。
大きさは5メートルほど。
それを俺の上にぽいっと投げた。
うわぁぁっ!? 馬鹿野郎、投げるなよ!
ベアラットはのしかかる前にゼリーのようにチュルンと鎧に吸い込まれた。
「あー、びっくりした」
すると鎧からビキビキと音がする。
すぐに音は聞こえなくなったが、俺は嫌な予感を覚える。
なんか近いうちにヤバいことが起きそうな感じだ。
「あ、ピーちゃん!」
エレインはホムンクルスの元へと走って行く。
やっぱインコと勘違いしてないか?
◇
町に戻ってきた俺達は、まずは宿に行くことに。
中に入るとちょうど三人の客がチェックインしているところだった。
「なにかおかしいです」
「え? おかしい?」
突然エレインが真剣な顔で言葉を発した。
彼女は宿の廊下を数歩行くと振り返る。
「涼しくありませんっ! どうして!?」
いやいやいや、泊まった次の日には普通の室温だったぞ。
あれだけの温度差に気が付かなかったお前に驚く。
「この宿にいた幽霊は消えたからなぁ」
「ガーン!」
あのな、例の幽霊が退治しなけりゃこっちが死んでたからな?
マジであの夜は恐怖体験だったよ。
「お帰りになられたのですねっ!」
宿の店主が俺の手を取ってニコニコする。
やけに上機嫌なのが気味が悪い。
「貴方があの部屋に泊まって以来、お客さんが連日来てくださるようになりました! 長く悩まされていたお客さんの怪死もピタリと止まって、今では逆に安全に泊まれる心霊宿として繁盛しております! なんとお礼を言っていいものやら!」
「そ、そうなんだ……ところで部屋は空いてるかな?」
「それなのですが、本当に申し訳ありません。今日はすでに満室でして……」
だよな。繁盛してるってことは部屋が埋まってるってことだもんな。
さて、今日の宿はどうしようかな。
「今夜は地下シェルターで寝ましょう」
「本気か?」
「はい。あそこなら比較的涼しいですよね?」
目が本気だ。と言うかそれしかないって雰囲気でプレッシャーをかけられている。
こいつ本当は宿の設備なんてどうでも良くて、涼しさだけを求めているんじゃないのか。
……いや、さすがにそれはないか。
涼しさが決め手なのは間違いないみたいだが。
宿を出たところで男性が俺達の前に立ち塞がる。
「やっぱりか。そんな気がしていたんだ」
「スターク様!?」
ギルドで見かけたフェスタニア公国の王子スターク・フェスタニアだった。
彼はエレインの腕を掴むと強引に連れて行こうとする。
「やめてください!」
「分かっているだろ。こんなところでフラフラされていては困るんだ。僕も、公国も、君の国もだ」
「それは……」
パシッ。
俺はスタークの手を払った。
その出来事にスタークもエレインも驚く。
「エレインは俺達の仲間だ。それに本人が嫌がっているだろ」
「貴様、この僕が誰か分かって言っているのか?」
「この国の王子だよな。だからどうした」
「……貴様、名前は?」
「西村義彦。冒険者だ」
スタークと俺はにらみ合う。
そして、彼は急に鼻で笑った。
「平民にムキになるのも馬鹿らしい。いずれ彼女は僕の物となるのだ。今は精々一時の自由を謳歌すればいい。それではまた、クリスティーナ第一王女」
奴はすたすたと去って行く。
……第一王女?? エレインが?
エレインを見るとスカートを両手で握りしめ耐えていた。
涙をこぼすまいと唇をかみしめて。
「みなさんに……ちゃんとお話しします」
彼女の声は震えていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ストックがなくなってしまったので書きため期間に入ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます