十九話 壊滅作戦2

「ふわぁ~、まさかこんな場所でゆっくりできるなんて思ってなかったよ」

「休める時に休んでおかないとな」

「はは、そう言えるのは義彦君ぐらいだよ」


 俺とルイスは寝転がって会話をする。

 探索を中断してほんの一時の休息を取っていた。


 ここは白い大きな部屋、仲間達もそれぞれリラックスしている。


 森の中ではおちおち休むこともできない。

 そこで俺は地下シェルターを使用した。

 使用方法は簡単、地面に金属製の蓋を設置するだけでいい。あとは蓋を開けて中に入れば外敵のいない白く大きな部屋が迎えてくれるというわけだ。しかも蓋は内側から施錠できるので、外から勝手に入ってくることもできない。


「義彦君は一体どこでこんな便利な道具を手に入れるんだい」

「手に入れるもなにも全て自作だけど?」

「え!?」

「ほら、俺って錬金術師だし」


 ルイスは「れ、れんきんじゅつし!?」などと起き上がって驚愕の表情で俺を見る。ベータも駆け寄ってきて「マジかよ!?」とまるで希少生物を見つけたような反応を示した。

 はてさて、どっちに驚いているのだろう。

 俺が希少な錬金術師だったことか、錬金術師が剣士みたいに戦っていることか。


「「ポーションぼったくりだ!」」


 あ、そっちか。しまったな、言わなきゃ良かった。

 どうにか誤魔化さないといけないよなぁ。


「あれでもかなり安くしているんだよ。材料費とか作業費とか合わせるとあれくらいになるんだ」

「あれ? 中級ポーションってほとんど私が作ってますよね?」

「材料はアタシがほとんど集めてるし」


 エレインとリリアの証言によって俺に複数のジト目が向けられる。

 くっ、なんで言うんだよ。ボロ儲けだったのに。


「きょ、今日から定価の一割で販売しようかなぁ……」

「買った!」


 せっかく作った中級ポーションの三分の一をルイス達に買われてしまった。

 いやまぁエレインには多めに作ってもらってたし、これくらいは別にどうってことはないんだけどさ。今後の販売のためにも、エレインとリリアには金を握らせて余計なことを言わせないようにしよう。


「それにしても義彦君が錬金術師だったとは驚いたなぁ」

「珍しいジョブらしいからな、そう思うのは仕方ない」

「それもそうだけどあれだけの強さを身につけている辺りがね……錬金術師って研究ばかりで部屋に籠もっているイメージが強いから、なおさらにそう思ってしまうんだろうな」


 ルイスは俺とは別の錬金術師に会ったことがあるらしい。

 その人は研究ばかりしていて、剣を持つなんてあり得ないと言うほど非力だったそうだ。錬金術師としてみると俺がかなり異質なことがよく分かる。


 体感で30分ほどだろうか。

 充分に休めたと思うので俺達は探索を再開することにした。


 部屋の外に繋がるはしごを昇ると蓋の施錠を解く。


 ガコン、重い蓋が少し開いて俺は隙間から周囲を確認した。

 敵はいないようだ。

 地上に出ると、後から出てきたエレインの手を握って引っ張り上げる。


「……血の臭いがどこからかしますね」


 すん、鼻を鳴らしたエレインが警戒を強める。

 確かに言われてみれば風に乗ってそれらしい臭いがする。

 もしかするとどこかで探索の誰かが敵と戦っているのかもしれない。


 全員が地下から出たところで蓋を回収する。


「それって野営にはもってこいの道具だよね。お願いしたら僕らにも作ってもらえるかな?」

「無理かな。これはたまたまできた物で俺にももう一度作れるか怪しい」

「そうなんだ。それは残念」


 俺もまだ会心の出来という現象を完全には把握し切れていない。

 同じ状況で発動すれば同じ物ができるのかすら怪しいのが現状だ。

 もう少し経験を積まないとなんともいえない。


 俺達は木や岩を陰にしつつ先を進む。


 歩くにつれて血や獣の臭いが濃くなっているような気がした。

 それに伴って黒いゴブリンとの遭遇率も上がり、次第に隠れることが困難になってゆく。最終的には目撃したゴブリンを殺しながら進むことを余儀なくされた。


「よっと、この先に巣穴っぽい洞窟が見える」


 高い位置にある枝から着地したリリアがそう言った。


 巣穴には百以上の黒いゴブリンが出入りしているそうだ。

 数体だが黒いオークの姿も確認できたらしく、あの黒い靄に包まれると種族関係なく協力関係になるようだ。

 それはそうとして問題はオークがどの程度強化されているのかである。

 ゴブリンであれだけ強くなるのだ、オークともなればかなり危険な存在になっていることだろう。


「どうしますか義彦。このまま調査を続けますか、それとも戻って報告しますか」

「……戻ろう。これ以上進むのは見つかる可能性が高い」

「おい、あれを見ろよ。誰か捕まってるぞ」


 リリアの声に俺達は視線を向ける。

 数体の黒いゴブリンに若い男女が引きずられている。

 彼らの顔はボコボコに腫れ上がり、服は引きちぎられて胸などが露出していた。


 聞いた話だが、ゴブリンは多種族の女でも子供を産ませることができるらしい。それこそ人型であればなんでも。

 特に人間の女は好まれているそうで、ゴブリン共は女性をさらっては子を産ませるそうだ。

 陵辱物のエロ本でよく見る話だが、実際に見ると胸くそにしか思えない。


「でも、どうして男も連れてきたんだ?」

「食料にするためだよ。たぶん子供に食わせるつもりなんだ」


 このまま彼らを放置すれば、確実に犯されて食われる。

 けど、俺達だけで拠点に攻め込むなんてどう考えても無謀だ。

 どうする。どうすればいい。

 助けに行くべきか見捨てるべきか。


 俺の手にエレインの手が重ねられる。


「私は義彦の決断に従います。だって貴方はリーダーじゃないですか」

「エレイン……」


 その上からリリアの手が載せられた。


「後のことなんて気にすんなよ! あいつらぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「リリア……」


 さらに五つの手が載せられる。

 ルイス達だ。


「君はこの組のリーダーだ。僕達は君の判断を信じるよ」

「お前がいるとなんかやれそうな気がするぜ。いざとなったらまたあのでっかい箱で逃げりゃあいいじゃねぇか」

「ルイス、ベータ……」


 そうだよな、ここで黙って戻るなんてことできないよな。

 俺は自分のことをひねくれたクソ野郎だと思ってるけど、誰かが死にそうになっていて、それを見過ごせるほど腐っているとも思っちゃいない。それにこういう大きなイベントをクリアーした後にはでっかい報酬が待ってるものだろ。


「やってやろうぜ!」

「はいっ!」

「おう!」


 俺達は武器を抜いて走り出す。

 すれ違うゴブリン共を斬り殺し、一気に奴らの巣穴へと突入した。

 洞窟の中は意外に広く、ほどなくして石造りの通路へと出る。

 どうやら奴らは何かの遺跡を巣穴に利用しているようだ。


 どこだ、捕まった奴らは!?


 通路を進んだ先では大きなドーム状の部屋があった。

 中央には捕まった男女が縄で縛られて放置されている。

 俺達は襲いかかってくる敵を斬り殺しながら彼らの元へ駆け寄った。


「大丈夫か!? 今、縄を切る!」

「あ、ああ……助けに来てくれてありがと……」


 ナイフで縄を切って四人の男女にポーションを渡す。

 一安心したところで申し訳ないが、こっちは戦力が不足している。

 彼らにも戦ってもらわないといけない状況だ。


「傷は治ったけど武器が……あいつらに奪われたんだ」

「奥に武器が集められている部屋がある。ゴブリン共は俺達が引きつけているから早くとってこい」


 俺の指示に四人が走る。

 鑑定が優秀なスキルで助かる。

 壁を隔てていてもどこに何があるのは一目瞭然。

 鑑定をすることよりもそこに至る機能が秀逸だ。


 俺達の周囲にゴブリン共が殺到する。

 その数は数百、はっきりした数字なんてもう分からない。


「エレイン! 上から一気に叩け!」

「はいっ!」


 バーニアで浮き上がった彼女は、細剣を鞭のようにしならせ広範囲を攻撃した。

 だが、奴らは死んだ仲間を踏み潰して前々へと出てくる。


「義彦君、これはかなり不味いと思うんだけど!」

「分かってる! アレを使うぞ!」


 俺は持っていた袋から粘着玉を取り出して放り投げる。

 バシャッ、ゴブリンの頭に直撃してどろりと液体がしたたる。

 すると、近くにいたゴブリンにゴブリンがくっつき団子状態となる。

 狙い通りだ。俺はニヤニヤしつつ、玉を敵へと投げまくった。


「こいつはいい! あいつら慌てまくってるぞ!」


 ベータが笑いながら剣を振るう。

 こちらに有利な状況へと変わりつつある。

 このまま押せれば……。


「戻りました!」

「それじゃあ守りの薄いところを援護してくれ!」


 四人が装備を整え戦力に加わる。

 これで俺を合わせて12人だ。

 対抗するにはぎりぎりといったところ。


「でりゃ!」


 ドゴッ、一瞬で10体以上のゴブリンが宙を舞う。

 リリアの強烈な打撃が冴え渡る。

 俺は彼女を見てハッとした。


「リリア、今こそ魔法を使うときだろ! こいつらをかたづけてくれ!」

「嫌だよ! それだと一瞬で終わるじゃん! アタシはもっともっと戦いたいの!」

「なにいってんの!? バカなのかお前!?」

「バカじゃねぇ! ぶっ飛ばすぞ!」


 やっぱバカじぇねぇか!

 なんでこの期に及んで魔法使わねぇんだよ!

 わかんねぇのか、ピンチなんだよ! 俺達死にそうなの!


「ぐがぁあああああっ!」


 6体の黒い靄に包まれたオークが現れる。

 俺は鑑定でステータスを確認した。



 【ステータス】

 名前:-

 年齢:18

 性別:雄

 種族:オ■■

 力:2566(4566)

 防:2854(4854)

 速:1644(3644)

 魔:982(2982)

 耐性:943(2943)

 ジョブ:-

 スキル:精力強化Lv5・闇の吐息Lv3

 称号:-



 やっぱり4000クラスにまで強化されている。

 しかもそれが6体となると厳しいか。

 俺はリュックから小瓶を取り出してそれぞれに投げる。


「これはなんですか?」

「レッドマッスルだ。飲めば身体能力が一時的に上昇し状態異常にも強くなれる」

「それはいいですね! やっぱり義彦は最高のリーダーです!」


 喜んでいる彼女の手に俺はもう一つ握らせる。

 それを見たエレインは目を見開いた。


「まだ今日の分、飲んでなかっただろ」

「ひどい! なにもこんな時に!」

「レッドマッスルと一緒に飲めばいいだ。ほら、皆が敵を押しとどめてくれている間に早く飲まないと」

「ううううっ……」


 涙ぐむ彼女は、草団子を口に入れると小瓶に入った液体で飲み下した。



【ステータス】

 名前:エレイン(クリスティーナ・フィ・ベルナート)

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:8146→9146(12146)

 防:8588→9588(12588)

 速:9631→10631(13631)

 魔:6073→7073(10073)

 耐性:6001→7001(10001)

 ジョブ:姫騎士

 スキル:細剣術Lv14・弓術Lv9・調理術Lv10・裁縫Lv20・栽培Lv18・カリスマLv15

 称号:-



 薬の上昇に加え、レッドマッスルの一時効果で一万にまで手が届いていた。

 そうかレッドマッスルは3000も上昇させてくれるのか。

 なかなか便利なエナドリだ。


 強化されたエレインはすさまじい猛攻でゴブリン共を押し始める。

 もはや振られる細剣が速過ぎて残像しか見えない。

 同じく液体を飲んだルイスとベータも疲れを忘れてしまったかのように戦っていた。


「義彦、アタシにも例の奴!」

「分かってるって」


 リリアにも草団子を渡す。

 飲み込んだ彼女はフンスと荒々しい息を吐いた。



 【ステータス】

 名前:リリア・ソルティーク

 年齢:18

 性別:女

 種族:ヒューマン

 力:8140→9140(12140)

 防:7099→8099(11099)

 速:7355→8355(11355)

 魔:22089→23089(26089)

 耐性:21999→22999(25999)

 ジョブ:賢者

 スキル:炎魔法Lv24・水魔法Lv20・風魔法Lv24・土魔法Lv23・補助魔法Lv20・格闘術Lv16・大正拳Lv11

 称号:賢者の証



 リリアの拳は黒いオークを数十メートルまで弾き飛ばした。

 後方を守る四人も黒いオークに勝利をしており、レッドマッスルの効果に驚くばかりだ。最後の一匹はルイス達の仲間である三人が仕留め、残りはゴブリンの大群だけとなる。


「ぐぉおおおおおおおっ!!」


 遺跡の中で咆哮が響いた。

 どうやらキングのお出ましらしい。

 俺は草団子とエナドリを飲み込んだ。



 【ステータス】

 名前:西村義彦

 年齢:18

 性別:男

 種族:ヒューマン

 力:8570→9570(12570)

 防:8465→9465(12465)

 速:8299→9299(12299)

 魔:9635→10635(13635)

 耐性:9052→10052(13052)

 ジョブ:錬金術師

 スキル:異世界言語LvMAX・鑑定Lv63・薬術Lv65・付与術Lv62・鍛冶術Lv63・魔道具作成Lv64・????・????・無拍子Lv1

 称号:センスゼロ



 数十のゴブリンを引き連れたキングが俺達の前に姿を現わす。

 奴は惨状を見て怒りをにじませていた。

 これは本格的に逃げられなくなってきたな。


 俺は冷や汗を流す。


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